ちゅんこ
『君たちはどう生きるか』は、第二次大戦下の日本を描いている。火事で母親を亡くした少年・眞人は軍事工場を営む父親と共に東京を離れ、「青鷺屋敷」と呼ばれる広大なお屋敷に引っ越してくる。疎開先では目に見えた被害はなく、一見穏やかな時間が流れているようにも思えるが、そこには明らかに戦争の影がある。やがて眞人は導かれるように不思議な世界に入りこんでゆく…。
映画『窓ぎわのトットちゃん』は太平洋戦争が始まる直前の時代から、トットちゃんがトモエ学園で過ごした数年間を描いている。落ち着きのなさから、前の小学校を退学になってしまったほど元気なトットちゃんの日常は、見ていて思わず笑みが零れる。だけどそんな平穏な日常の陰で、戦争の足音は確実に近づいてきている。トモエ学園は空襲で焼かれ、線路沿いにあったトットちゃんの家は建物疎開で取り壊されてしまう。やがてトットちゃん一家は東京を離れていく。
『ほかげ』は終戦直後の闇市が舞台だ。戦争は終わったが、生き残った人々の生活は苦しく、きょうを生き延びるので精一杯だ。戦争孤児の少年は、半焼けになった居酒屋で暮らす女や、PTSDに苦しむ復員兵の男、そして片腕が動かないテキ屋の男と出会い、さまざまな経験を通して成長してゆく。物語の中盤、森山未來演じるテキ屋の男が少年と旅をする場面がある。旅の果てで、まるで何かから解き放たれるように男が空に向かって呟く言葉が印象的だ。男の中であのときようやく長い悪夢のような戦争が終わったのだろう。
ロシアによるウクライナ侵攻がはじまったとき、何気ない日常が突如奪われた人々のさまを、私はニュースやテレビの片側から呆然と眺めていた。家や家族、日々のささやかな楽しみや喜びが奪われ、命の危機に怯える。一度起きてしまえば取り返しがつかない。たとえ戦争が終わったとしても、失ったものは取り戻せないのだ。戦争は人々の命だけでなく、自由や希望、すべてを奪い去る。だからこそ絶対に起きてほしくない。この当たり前のような日常がいつまでも続くことを心から願う。今週は戦争の時代を生きる少年少女たちの特集です。決して他人事ではない彼らの物語を、いまこの時代だからこそ送りたいと思います。
【モーニングショー】ほかげ
【Morning Show】Shadow of Fire
■監督・脚本・撮影・編集・製作 塚本晋也
■助監督 林啓史
■音楽 石川忠
■音響演出 北田雅也
■出演 趣里/塚尾桜雅/河野宏紀/利重剛/大森立嗣/森山未來
■第80回ヴェネチア国際映画祭オリゾンティ部門正式出品・NETPAC賞受賞/第48回トロント国際映画祭センターピース部門正式出品/第36回東京国際映画祭ガラ・セレクション正式出品
©2023 SHINYA TSUKAMOTO/KAIJYU THEATER
【2024/6/29(土)~7/5(金)上映】
女が暮らす半焼けの居酒屋、片腕が動かない男との旅、空襲で家族を失った子供の目から見た、戦争と人間。
女は、 半焼けになった小さな居酒屋で1人暮らしている。体を売ることを斡旋され、戦争の絶望から抗うこともできずにその日を過ごしていた。空襲で家族をなくした子供がいる。 闇市で食べ物を盗んで暮らしていたが、ある日盗みに入った居酒屋の女を目にしてそこに入り浸るようになり…。
人間の中に潜む暴力、分かち難く絡む死と生を描いてきた塚本晋也が今を生きる全ての者に問いかける祈りの物語。
『鉄男』でのセンセーショナルな劇場デビュー以後、世界中に熱狂的ファンを持ち、多くのクリエイターに影響を与えてきた塚本晋也。戦場の極限状況で変貌する人間を描いた『野火』、太平の世が揺らぎ始めた幕末を舞台に生と暴力の本質に迫った『斬、』、その流れを汲んだ本作の舞台は『野火』の直後、終戦後の闇市。戦争で奪われたものと、絶望と闇を抱えたまま混沌の中で生きる人々を、映画はしたたかに描き出す。
主演は、NHK連続テレビ小説「ブギウギ」のヒロインに抜擢され、今最も活躍が期待されている俳優、趣里。孤独と喪失を纏いながらも戦争孤児との関係にほのかな光を見出す様を繊細かつ大胆に演じ、戦争に翻弄されたひとりの女を見事に表現した。片腕が動かない謎の男を演じるのは、映像、舞台、ダンスとジャンルにとらわれない表現者である森山未來。飄々としながらも奥底に蠢く怒りや悲しみを、唯一無二の存在感で示している。復員した若い兵士役にPFFグランプリ受賞作品『J005311』の監督でもある河野宏紀、戦争孤児を演じた塚尾桜雅は、一度見たら忘れられないその瞳で物語をより深く豊かに彩った。
映画『窓ぎわのトットちゃん』
Totto-Chan: The Little Girl at the Window
■監督・脚本 八鍬新之介
■共同脚本 鈴木洋介
■原作 「窓ぎわのトットちゃん」(黒柳徹子 著/講談社 刊)
■製作 黒柳徹子
■アニメーション制作 シンエイ動画
■キャラクターデザイン・総作画監督 金子志津枝
■色彩設計 松谷早苗
■美術監督 串田達也
■撮影監督 峰岸健太郎
■音楽 野見祐二
■主題歌「あのね」 あいみょん(unBORDE/Warner Music Japan)
■声の出演 大野りりあな/小栗旬/杏/滝沢カレン/役所広司
■第47回日本アカデミー賞アニメーション作品賞ノミネート
©黒柳徹子/2023映画「窓ぎわのトットちゃん」製作委員会
【2024/6/29(土)~7/5(金)上映】
君のこと、忘れないよ
落ち着きがないことを理由に、小学校を退学になってしまったトットちゃん。新しく通うことになったトモエ学園の校長先生は、出会ったばかりのトットちゃんに優しく語りかけた。「君は、ほんとうは、いい子なんだよ。」
トットちゃんの元気いっぱい、すべてが初めてだらけの日々が始まる——
世界中が涙した、一人の少女<黒柳徹子>の真実の物語
今から約80年前、第二次世界大戦が終わる少し前の激動の時代を背景に、黒柳徹子の幼少期を自伝的に描いた「窓ぎわのトットちゃん」。日本のみならず、海を越えて多くの国で愛される世界的ベストセラー作品が、アニメーションで初めて映画化された。
監督を八鍬新之介。制作をシンエイ動画。そしてトットちゃんを始めとしたキャラクターデザインを金子志津枝が担当。日本アニメ界におけるトップクリエイターたちが集結し、珠玉の名作の映画化に挑んでいる。
トットちゃんの愉快な日常を通して見えてくる、日々のささやかな幸せ、個性の豊かさ、恩師からの教え、家族・友人への深い愛情。世界中が涙した、一人の少女<黒柳徹子>の真実の物語が完成した。
君たちはどう生きるか
The Boy and the Heron
■原作・脚本・監督 宮﨑駿
■プロデューサー 鈴木敏夫
■制作 スタジオジブリ/星野康二/宮崎吾朗/中島清文
■作画監督 本田雄
■美術監督 武重洋二
■色彩設計 沼畑富美子/高栁加奈子
■撮影監督 奥井敦
■音楽 久石譲
■主題歌 「地球儀」米津玄師(Sony Music Labels Inc.)
■声の出演 山時聡真/菅田将暉/柴咲コウ/あいみょん/木村佳乃/木村拓哉/竹下景子/風吹ジュン/阿川佐和子/滝沢カレン/大竹しのぶ/國村隼/小林薫/火野正平
■第96回米国アカデミー賞長編アニメーション映画部門賞受賞/第77回英国アカデミー賞 アニメーション映画賞受賞/第81回ゴールデングローブ賞 アニメーション映画賞受賞
© 2023 Hayao Miyazaki/Studio Ghibli
【2024/6/29(土)~7/5(金)上映】
あばよ、友だち
母親を火事で失った少年・眞人は父の勝一とともに東京を離れ、「青鷺屋敷」と呼ばれる広大なお屋敷に引っ越してくる。亡き母の妹であり、新たな母親になった夏子に対して複雑な感情を抱き、転校先の学校でも孤立した日々を送る眞人。そんな彼の前にある日、鳥と人間の姿を行き来する不思議な青サギが現れる。その青サギに導かれ、眞人は生と死が渾然一体となった世界に迷い込んでいく。
宮﨑駿監督10年ぶりとなる長編映画最新作!
原作・脚本・監督を宮﨑駿が務め、本作のタイトルは、宮﨑監督が少年時代に読み、感動した吉野源三郎著「君たちはどう生きるか」から借りたもの。
宮﨑監督のオリジナルストーリー作品である本作は、第81回ゴールデングローブ賞・アニメ映画賞受賞し、ジブリ作品として、そして日本作品としても初の快挙となった。