ぽっけ
もしも最良の時というものがあるのだとしたら、それは過去に見つけ出せるものなのかもしれない。未来に期待したとしてもそれは不確かで儚い。そして記憶の中で輝くものたちはどうにも眩いものなのだ。
だからこそまるでシェイクスピアの劇が甦ったような『ウエスト・サイド・ストーリー』の2人が恋に落ちる、その瞬間が映画に刻印されていることに驚き、戸惑い、憧れる。この心の痛みは恋が決して成就することのない悲劇へと変わることで、かろうじてその形を保ったまま私たちを日常に戻してくれる。そうしなければ私たちが眩さに狂い、引き裂かれてしまうかもしれないから。
『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』もそうだ。ウェス・アンダーソン監督は、ハロルド・ロスが創刊した「ニューヨーカー」への憧れや思い出、古き良きフランス映画の記憶をたっぷりに詰め込んで限りないオマージュを捧げている。俳優たちの口々から発せられる言葉に溢れる活字文化への愛情、すでに存在しなくなってしまったものへの憧憬。その一つ一つが輝いてみえる。
しかし美化された記憶やノスタルジックな思いだけであれば、私たちは今目の前に映るこの映画たちをこんなにも驚きと憧れをもって眺めることができるだろうか。私は『ウエスト・サイド・ストーリー』のバルコニーで見つめ合うシーンに、過去の名作映画たちと同じように決して視線を離さない恋人たちの姿を見た。これはほとんど失われつつあったハリウッド映画の輝きではないか。巷で噂されるファスト映画と言われる「スローで説明的な省略動画」よりも遥かに速いウェス・アンダーソンの映画の語りは、サイレント時代の映画のように速く、豊穣だ。これはノスタルジーではない。発見であり発掘。私たちは作家たちによって「掘り起こされた」めったに見ることのできない「最良の一部分」を今目の当たりにしているのかもしれない。
ウエスト・サイド・ストーリー
West Side Story
■監督 スティーブン・スピルバーグ
■製作 スティーブン・スピルバーグ/クリスティ・マコスコ・クリーガー/ケヴィン・マッカラム
■製作総指揮 リタ・モレノ/ダニエル・ルピ/アダム・ソムナー/トニー・クシュナー
■舞台劇原案・原作 アーサー・ローレンツ
■脚本 トニー・クシュナー
■撮影 ヤヌス・カミンスキー
■編集 マイケル・カーン/サラ・ブロシャー
■振付原案 ジェローム・ロビンス
■振付 ジャスティン・ペック
■作詞 スティーブン・ソンドハイム
■作曲 レナード・バーンスタイン
■指揮 グスターボ・ドゥダメル
■劇考案・監督・振付 ジェローム・ロビンス
■音楽製作総指揮 マット・サリヴァン
■出演 アンセル・エルゴート/レイチェル・ゼグラー/アリアナ・デボーズ/デヴィッド・アルヴァレス/リタ・モレノ/ブライアン・ダーシー・ジェームズ/コリー・ストール/マイク・フェイスト/ジョシュ・アンドレス・リベラ /アイリス・メナス
■第94回アカデミー賞助演女優賞受賞、作品賞・監督賞ほか4部門ノミネート/2021年ゴールデングローブ賞作品賞・主演女優賞・助演女優賞受賞・監督賞ノミネート/NY批評家協会賞撮影賞受賞/LA批評家協会賞助演女優賞受賞 ほか多数受賞ノミネート
© 2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.
【2022年7月16日から7月22日まで上映】
ひとつになりたかった。ひとつになれない世界で――
夢や成功を求め、多くの移民たちが暮らすニューヨークのウエスト・サイド。だが、貧困や差別に不満を募らせた若者たちは同胞の仲間と結束し、各チームの対立は激化していった。ある日、プエルトリコ系移民で構成された“シャークス”のリーダーを兄に持つマリアは、対立するヨーロッパ系移民“ジェッツ”の元リーダーのトニーと出会い、一瞬で惹かれあう。この禁断の愛が、多くの人々の運命を変えていくことも知らずに…。
伝説のミュージカルを、巨匠スティーブン・スピルバーグが念願の映画化!
「ロミオとジュリエット」をモチーフにした<伝説のミュージカル>を巨匠スティーブン・スピルバーグ監督が念願の映画化。舞台は、対立するグループによって引き裂かれたニューヨークのウエスト・サイド。運命に逆らい、社会の分断を乗り越えようとした“禁断の愛”の物語が、エンターテイメント史に残る数々の名曲とダイナミックなダンスと共に描かれる。“異なる立場を越えて、私たちは手を取り合えるのか?”という普遍的なメッセージを込めて贈る、感動のミュージカル・エンターテイメント。
トニー役は『ベイビー・ドライバー』のアンセル・エルゴート。約30,000人ものオーディションから選ばれたマリア役は、ディズニーの実写版『白雪姫』のヒロインへの大抜擢も話題の新星レイチェル・ゼグラー。アニータ役のアリアナ・デボーズは本作で見事アカデミー賞助演女優賞を受賞。また、1961年版『ウエスト・サイド物語』でアニータ役を演じ、アカデミー賞助演女優賞に輝いたリタ・モレノの出演も話題を呼んだ。
フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊
The French Dispatch of the Liberty, Kansas Evening Sun
■監督・脚本 ウェス・アンダーソン
■製作 ウェス・アンダーソン/ジェレミー・ドーソン
■原案 ウェス・アンダーソン/ロマン・コッポラ/ヒューゴ・ギネス/ジェイソン・シュワルツマン
■撮影 ロバート・イェーマン
■美術 アダム・ストックハウゼン
■衣装 ミレーナ・カノネロ
■編集 アンドリュー・ワイスブラム
■音楽 アレクサンドル・デスプラ
■出演 ビル・マーレイ/ティルダ・スウィントン/フランシス・マクドーマンド/ジェフリー・ライト/オーウェン・ウィルソン/ベニチオ・デル・トロ/エイドリアン・ブロディ/レア・セドゥ/ティモシー・シャラメ/リナ・クードリ/マチュー・アマルリック/スティーヴン・パーク/エドワード・ノートン/シアーシャ・ローナン
■第74回カンヌ国際映画祭コンペティション部門正式出品/第79回ゴールデングローブ賞作曲賞ノミネート
© 2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.
【2022年7月16日から7月22日まで上映】
フランスの片隅に編集部を構える米国の人気雑誌。名物編集長の追悼号にして最終号は、どうなる?
物語の舞台は、20世紀フランスの架空の街にある「フレンチ・ディスパッチ」誌の編集部。米国新聞社の支社が発行する雑誌で、アメリカ生まれの名物編集長が集めた一癖も二癖もある才能豊かな記者たちが活躍している。国際問題からアート、ファッションから美食に至るまで深く斬り込んだ唯一無二の記事で人気を獲得している人気雑誌だ。
ところが、編集長が仕事中に心臓まひで急死、「フレンチ・ディスパッチ」は彼の遺言によって廃刊がを迎えることになる。果たして、何が飛び出すか分からない編集長の追悼号にして最終号の、思いがけないほどおかしく、思いがけないほど泣ける、その全貌とは──?
ウェス・アンダーソン監督が超豪華キャストとともに贈る、活字文化とフレンチ・カルチャーに対するラブレター
『ダージリン急行』『ファンタスティック Mr.FOX』『グランド・ブダペスト・ホテル』『犬ヶ島』といった名作の数々を生み出したウェス・アンダーソン監督の記念すべき第10作目を飾る最新作の舞台は、20世紀フランスの架空の街にある「フレンチ・ディスパッチ」誌の編集部。物語はその最終号に掲載される1つのレポート「自転車レポーター」と、3つのストーリー「確固たる名作」、「宣言書の改訂」、「警察所長の食事室」で構成され、ウェス・アンダーソンらしいユニークな演出が散りばめられた魅惑の映像で語られる。
ビル・マーレイ演じる編集長が率いる「フレンチ・ディスパッチ」誌には、オーウェン・ウィルソン演じる自転車レポーター、ティルダ・スウィントン演じる批評家であり編年史家、フランシス・マクドーマンド演じる孤高のエッセイスト、ジェフリー・ライト演じる博識家など、海外ジャーナリストたちが勢ぞろい。各ストーリーではベニチオ・デル・トロ、レア・セドゥ、ティモシー・シャラメ、シアーシャ・ローナンらが個性的なキャラクターに扮し、ウェス作品初参加の俳優陣から”超”常連たちまで豪華キャストが集結した。