1969年テキサス州ヒューストン生まれ。
大学で俳優のオーウェン・ウィルソンと出会い、映画の共同制作を始める。96年『アンソニーのハッピー・モーテル』で長編監督デビュー。98年『天才マックスの世界』で批評家の支持を得、01年の『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』は全世界で大ヒットを記録、一躍その名を知らしめた。
その後も発表する作品毎にファンを増やし、最新作の『グランド・ブタペスト・ホテル』は見事ベルリン国際映画祭銀熊賞に輝いた。これまでに3度のアカデミー賞ノミネートを誇り、全世界で最もユニークで、最も人気を博しているフィルムメイカーの1人である。
・アンソニーのハッピー・モーテル('96)<未>
・天才マックスの世界('98)<未>
・ザ・ロイヤル・テネンバウムズ('01)
・ライフ・アクアティック('05)
・イカとクジラ('05)※製作のみ
・ホテル・シュヴァリエ('07)
・ダージリン急行('07)
・ファンタスティック Mr.FOX('09)
・ムーンライズ・キングダム('12)
・グランド・ブダペスト・ホテル('13)
ウェス・アンダーソン監督の映画は、どのシーンを切り取っても情報量でいっぱいで、驚くほど隅々まで作りこまれている。それでも不思議なことに、彼の作品の世界観はすんなりと受け入れてしまえる。キャラクターたちの独特なしぐさや絶妙なニュアンスをもつセリフがしっくりくるのは、決して持ち前のおしゃれさやテンポの良さだけではない。彼の作り出したキャラクターたちは、まるで私たちの知らないどこかで本当に暮らしているようなイメージを浮かばせる。偶然性を極力排したように見えるウェス・アンダーソン監督の映画は、全くの作り物であるにもかかわらず、私たちのいる現実よりも、なんて瑞々しいのだろうか。
全編人形を使ったストップモーション・アニメ『ファンタスティック Mr.FOX』では、その魅力を存分に堪能することができる。妻の妊娠をきっかけに盗みをやめ、つつましく生活することを決めたMr.FOXは、あることがきっかけで“日々の暮らしの中に埋もれていたありのままの自分”を呼び覚ます。すぐさま行動に移すMr.FOXと巻き込まれていく動物達、そして盗みを許さない人間たちが織り成す物語の速度と爽快感は、ウェス・アンダーソン監督作の中でも随一だ。生き生きと画面を動き回るキャラクターたちを観ていると、私たちも同じようなエネルギーに満ちてくるだろう。
そして新作『グランド・ブダペスト・ホテル』では、それをさらに突き詰めている。ストップモーション・アニメあり、CGありという、今まで培ってきた技術をふんだんにちりばめた今作は、ウェス・アンダーソン監督の集大成といえる作品だ。かつてのヨーロッパの、架空の国の架空のホテルを舞台に、キャラクターたちのユーモアは切れ味を増す。
けれど、問題を抱えたキャラクターたちがそれでもなんとなく和解しながら幕が下りる今までの作品とは、どこかが違う。遠い昔、遠い国の輝かしい日々を現在から眺めているような侘しさが、物語の最後に残るのだ。『グランド・ブダペスト・ホテル』にこれまでにはないスケールの大きさを感じるのは、現代に生きる少女から始まり、彼女が読んでいる小説の作者が、実際に聞いた話の時代にさらにさかのぼるという入り組んだ設定に加えて、今はもう存在しない世界への愛着と、それに対するある種の諦観が描かれているからだと思う。
今回上映する『ファンタスティック Mr.FOX』と『グランド・ブダペスト・ホテル』は監督従来のチャームポイントと新たな決意を確認できる二本立てだ。独自の路線を突き進む彼の作品から目を離すことができない。
ファンタスティック Mr.FOX
FANTASTIC MR. FOX
(2009年 アメリカ/イギリス 87分 ビスタ/SRD)
2014年10月25日から10月31日まで上映
■監督・脚本・製作 ウェス・アンダーソン
■原作 ロアルド・ダール「すばらしき父さん狐」/「父さんギツネバンザイ」(評論社刊)
■脚本 ノア・バームバック
■製作 アリソン・アベイト/スコット・ルーディン/ジェレミー・ドーソン
■アニメーション監督 マーク・グスタフソン
■撮影 トリスタン・オリヴァー
■音楽 アレクサンドル・デスプラ
■声の出演 ジョージ・クルーニー/メリル・ストリープ/ジェイソン・シュワルツマン/ビル・マーレイ/ウォーリー・ウォロダースキー/エリック・アンダーソン/マイケル・ガンボン/ウィレム・デフォー/オーウェン・ウィルソン/ジャーヴィス・コッカー
■2009年アカデミー賞長編アニメ映画賞・作曲賞ノミネート/ナショナル・ボード・オブ・レビュー特別映画製作業績賞受賞/ゴールデン・グローブ賞アニメ映画賞ノミネート/NY映画批評家協会賞最優秀男優賞受賞(ジョージ・クルーニー)
Mr.FOXは盗みをしながら暮らしていたが、妻のMrs.FOXとちょっと変わり者の息子アッシュのために、盗みから足を洗い、今は穴暮らしをしながら新聞記者として働く日々。だが、「もっといい暮らしをしたい!」そんな欲求にかられた彼は、丘の家を購入することに。しかし丘の向こうには意地の悪い3人の人間の農場主(ビーン、ボギス、バンス)が住んでいた。
それでも憧れの家に引っ越し、人間に近づいたMr.FOXは、野生の本能が目覚めてしまい、人間たちの飼育場から昔のように獲物を盗むことに熱をあげていく。日々獲物を盗まれる人間たちの怒りはついに頂点に達し、結束した3人はトラクターを使って根こそぎ丘を掘り返し始めた! 一家の主として、父親として、“ファンタスティック”に生きたいMr.FOXと土の中で生活する彼らの仲間たちは、野生の本能と誇りをかけ、人間たちと戦い始める!
「チョコレート工場の秘密」で知られるロアルド・ダールが1970年に発表した「すばらしき父さん狐」。子供の頃に原作を呼んだウェス・アンダーソン監督は、いつかは映画化したいと願い続け、遂に現実となった。しかも、CGや3Dが主流の今あえてストップモーション・アニメにこだわり、1秒に24コマ撮り(本編87分!)という、時間と手間と愛情をかけて作品を完成させた。
主人公Mr.FOXの声は『オーシャンズ』シリーズから社会派作品まで幅広い演技力でハリウッドのトップにたつジョージ・クルーニーが務めた。Mrs.FOXには2度のアカデミー賞主演女優賞受賞を誇る、名女優メリル・ストリープ。さらにはアンダーソン作品常連のジェイソン・シュワルツマン、ビル・マーレイ、オーウェン・ウィルソンなど、素晴らしい個性派豪華キャストが人形たちにリアルな息吹を与えている。
グランド・ブダペスト・ホテル
THE GRAND BUDAPEST HOTEL
(2013年 イギリス/ドイツ 100分 ビスタ)
2014年10月25日から10月31日まで上映
■監督・脚本・発案・製作 ウェス・アンダーソン
■発案 ヒューゴ・ギネス
■製作 スコット・ルーディン/スティーヴン・レイルズ/ジェレミー・ドーソン
■撮影 ロバート・イェーマン
■衣装 ミレーナ・カノネロ
■美術 アダム・ストックハウゼン
■音楽 アレクサンドル・デスプラ
■出演 レイフ・ファインズ/トニー・レヴォロリ/F・マーレイ・エイブラハム/マチュー・アマルリック/エイドリアン・ブロディ/ウィレム・デフォー/ジェフ・ゴールドブラム/ハーヴェイ・カイテル/ジュード・ロウ/ビル・マーレイ/エドワード・ノートン/シアーシャ・ローナン/ジェイソン・シュワルツマン/レア・セドゥ/ティルダ・スウィントン/トム・ウィルキンソン/オーウェン・ウィルソン
■2014年ベルリン国際映画祭銀熊賞(審査員グランプリ)受賞
美しい山々を背に優雅に佇む、ヨーロッパ最高峰のグランド・ブタペスト・ホテル。エレガントな宿泊客たちのお目当ては、“伝説のコンシェルジュ”グスタヴ・Hだ。彼の究極のおもてなしの秘密は、マダムたちの夜のお相手も辞さない徹底したプロ意識にあった。ところが、グスタヴの長年のお得意様である伯爵夫人が殺され、遺言で貴重な絵画を贈られたグスタヴが容疑者に! ヨーロッパ大陸を逃避行しながら、愛弟子のベルボーイのゼロと、肉親よりも固い絆を結ぶコンシェルジュの秘密結社の力を借りて、謎に挑むグスタヴ。果たして、彼らは身の潔白を証し、命より大切なホテルの威厳を守れるのか――?
現代から60年代、そして大戦前夜の3つの時代を背景にラグジュアリーなホテルで繰り広げられるミステリー。今世界中で最も人気のある監督の一人であるウェス・アンダーソンの最新作が完成した。次々に事件が起こるスリリングな展開なのに、独特なユーモアで至福感に包まれる、アンダーソン監督にしか生み出せない世界観。公開されるや世界各国で次々と記録を塗り替えるヒットとなり、最高傑作との呼び声も高い。
そんな彼の新作に集まったのは超豪華&個性派スターの面々。主役のレイフ・ファインズをはじめ、エイドリアン・ブロディ、ウィレム・デフォー、ジェフ・ゴールドブラム、ハーヴェイ・カイテル、ジュード・ロウ、ビル・マーレイ、ティルダ・スウィントン、シアーシャ・ローナン、マチュー・アマルリック、レア・セドゥ等々、国際色豊かなキャストが濃密なキャラクターを演じている。さらに、そこかしこに仕込まれた映画史へのオマージュ、こだわり抜いた美術や衣装、ドイツ・ドレスデンで撮影された風光明媚な街並みなど、まさにどこから見ても楽しめる、極上のミステリー・エンタテインメントがついに幕を開ける!