現在はIMAXや3D・4Dなど最新技術をフル動員した
アメコミ映画等の大作映画がハリウッドのメインストリームです。
もちろんそれ自体は悪いことではないのですが、
かつてのように映画館でシンプルに娯楽映画を観る楽しさは
だんだんと見えづらくなっているような気がします。
『ベイビー・ドライバー』と『ローガン・ラッキー』は
どちらもカーアクションと音楽が満載の痛快娯楽作ですが、
その風通しの良い面白さの裏には、
シンプルな娯楽映画の原点に立ち返ろうとする強い意志があるように感じます。
ローガン・ラッキー
LOGAN LUCKY
(2017年 アメリカ 119分 シネスコ)
2018年3月10日から3月16日まで上映
■監督 スティーヴン・ソダーバーグ
■製作 グレゴリー・ジェイコブズ/マーク・ジョンソン/チャニング・テイタム/リード・カロリン
■脚本 レベッカ・ブラント
■撮影 ピーター・アンドリュース
■音楽 デヴィッド・ホームズ
■出演 チャニング・テイタム/アダム・ドライヴァー/ダニエル・クレイグ/ライリー・キーオ/ケイティ・ホームズ/ヒラリー・スワンク
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足が不自由で仕事を失い、家族にも逃げられ失意の人生を送る炭鉱夫ジミー・ローガンにはある企みがあった。それは、まもなく開催される全米最大のモーターカーイベントNASCARのレース中に大金を盗み出すという<前代未聞の強奪計画>――。
早速、戦争で片腕を失った元軍人で冴えないバーテンダーの弟クライドと、美容師でカーマニアの妹メリーを仲間に加えたジミーだったが、ツキに見放されてきたローガン一家だけでは頼りがない、そこで、大胆な犯行を成功させるため、爆破のプロで現在服役中の変人ジョー・バングに協力を仰ぐのだが…。
ソダーバーグの映画監督復帰作である本作は、自身のヒット作『オーシャンズ』シリーズの姉妹編のような趣があります。しかしオールスターキャストが犯罪のプロ集団を華やかに演じた『オーシャンズ』シリーズに対し、本作の主人公たちは時代に取り残され、崖っぷちの中で一発逆転を狙う人々です。作戦を成功させるために一所懸命な彼らの姿はコミカルながらもいたって切実であり、現在の格差社会に取り残されている人々への監督の優しいまなざしを感じさせます。それは引き締まった語り口とあいまって、『ホットロック』や『スティング』など70年代の等身大でニューシネマ感覚溢れる粋な犯罪映画のようです。
ハリウッドが物量過多になりがちなこの時代、ソダーバーグはかつて自分を楽しませ、監督への夢を育んでくれた映画の面白さを改めて見つめ直そうとしたのかもしれません。今回は彼自身のプロダクションが初めて全米での配給まで手掛けたところにも、ソダーバーグの意気込みが見てとれます。
ベイビー・ドライバー
BABY DRIVER
(2017年 アメリカ 113分 シネスコ)
2018年3月10日から3月16日まで上映
■監督・製作総指揮・脚本 エドガー・ライト
■製作総指揮 レイチェル・プライアー/ジェームズ・ビドル/アダム・メリムス/ライザ・チェイシン/ミシェル・ライト
■撮影 ビル・ポープ
■編集 ポール・マクリス/ジェナサン・エイモス
■音楽 スティーヴン・プライス
■出演 アンセル・エルゴート/リリー・ジェームズ/ケヴィン・スペイシー/ジェイミー・フォックス/ ジョン・ハム/エイザ・ゴンザレス/フリー/スカイ・フェレイラ/ジョン・スペンサー
■第75回ゴールデン・グローブ男優賞ノミネート/英国アカデミー賞編集賞・音響賞ノミネート/放送映画批評家協会賞編集賞受賞・アクション映画賞ノミネート
彼の名前はベイビー。その天才的なドライビング・センスが買われ、組織の運転手として彼に課せられた仕事――それは、銀行、現金輸送車を襲ったメンバーを確実に「逃がす」こと。子供の頃の交通事故が原因で耳鳴りに悩まされ続けているベイビー。しかし、音楽を聴くことで、耳鳴りがかき消され、そのドライビング・テクニックがさらに覚醒する。そして誰も止めることができない、追いつくことすらできない、イカれたドライバーへと変貌する――。
本作で誰もが圧倒されるのは、主人公のベイビーがipodで聴いているロックやポップス、ファンクやブルースのリズムに映像の動きがほぼ完ぺきに同期しているところでしょう。そのかなりマニアックかつ広範な選曲は一見デタラメなようでいて、登場人物たちの会話やスリリングな展開にも絶妙にシンクロし、作品のドライヴ感をグングンと加速させていくのだから脱帽ものです。
その音楽が映像全体に奉仕し、映像もまた音楽の快楽をおし進めていく原初的な力強さは、さながらジンジャー・ロジャースやフレッド・アステアの歌やダンスを最高に気持ちよくスウィングさせるために映画自体がつくられた、往年のミュージカル映画の最新究極バージョンのようです(ベイビーとヒロイン・デボラとの直球なベストカップルぶりも、古き良きハリウッド映画を連想させます)。ハチャメチャで全てがフレッシュな本作ですが、その楽しさの裏にはエドガー・ライト監督の、実に深いふかい音楽と黄金時代のハリウッド映画に対する愛情が溢れかえっています。
(ルー)