【2022/3/12(土)~3/25(金)】ジム・ジャームッシュ監督特集『ミステリー・トレイン』『デッドマン』『ナイト・オン・ザ・プラネット』『コーヒー&シガレッツ』

すみちゃん

ジム・ジャームッシュ監督特集第二弾は、『ミステリー・トレイン』『デッドマン』『ナイト・オン・ザ・プラネット』『コーヒー&シガレッツ』の4作品。たっぷりゆっくり2週間上映です。

ジム・ジャームッシュ監督作品に初めて出会ったのは、おそらく20代前半。どんな映画が好きなのかまだ自分でもよく分からず、TSUTAYAで手あたり次第面白そうだなと思って手に取ったのが『コーヒー&シガレッツ』でした。当時は、好きなエピソードは“双子”かな?とか、自分の感覚や波長を探し当てるように見ていました。いま改めて見返すと、どのエピソードも少し居心地が悪い会話が続いていて、その場の空気をなんとかコーヒーとシガレッツがつなぎとめているように見えます。言葉ではどうにもならない微妙な時間をじっくり見るのはちょっとおかしくって、心当たり満載です。

『ナイト・オン・ザ・プラネット』は5つの国の、さまざまなタクシー内の物語。特にパリのエピソードでの盲目の女性を演じるベアトリス・ダルの、「映画を感じるのよ。」「私は色を感じる。」という台詞は、ずっと私の心の中に留まり続けています。目に見えることだけがすべてではないと、教えてくれたのはこの映画でした。

『ミステリー・トレイン』では同じ町、同じホテルでたまたま過ごしていた人たちの、プレスリーにまつわる3つのお話が描かれます。“ア・ゴースト”に出てくるプレスリーの幽霊話には思わず私も笑ってしまいました。テネシー州メンフィスという場所だからこそ起こりうる不思議な1日を、共に過ごしたような気持ちになります。

『デッドマン』では癖のある殺し屋が3人、雇われて共に行動をするのですが、三者三様、ちぐはぐさが露わになります。事件が起こらなければ出会いもしなかった3人の姿を見ていると、うまくいかないのって当たり前だよね!と思います。この映画に出てくる人たちは、みんなうまくいかないのです。

ジャームッシュの作品に出てくる人々は、出会うはずもなかった、あるいは最高の出会いではないかもしれないけれど、人生は交わってしまうものだよなと教えてくれている気がします。コロナ禍もありますが、職場や映画館など同じような場所を行き来して生きているわたしは、人生の交わりを感じる機会が少なくなっています。知らない間に居心地の悪い空気に耐えられなくなって、自分とは違う考え方の人間を受け入れられなくなっているかもしれません。でも、自分とはまるで違う人生を生きている人にも出会わなければ、知らないままで終わってしまうこともあります。違う考え方の人間だって、わたしと同じように生きています。分かり合うことだけがすべてではないからこそ、ジャームッシュの映画に出てくる人々の出会いは、例え不穏な空気が流れていたとしても、ものすごい奇跡を目にしている気がしてくるのです。

いま改めてジャームッシュの映画を見直すことで、気づけることがあるかもしれません。そして、まだ見ていない人は劇場で観られるという体験を楽しんでもらいたいと思います。ぜひ、ふらっと、ジャームッシュの映画に出てくる人たちに会いに来てください!

デッドマン
Dead Man

ジム・ジャームッシュ監督作品/1995年/アメリカ/121分/DCP/PG12/ビスタ

■監督・脚本 ジム・ジャームッシュ
■撮影 ロビー・ミュラー
■編集 ジェイ・ラビノウィッツ
■音楽 ニール・ヤング

■出演 ジョニー・デップ/ゲイリー・ファーマー/ミリー・アヴィタル/ジョン・ハート/ガブリエル・バーン/ランス・ヘンリクセン/イギー・ポップ/ロバート・ミッチャム/スティーヴ・ブシェミ

© 1995 Twelve Gauge Productions Inc.

【2022年3月25日まで上映】

銃弾は詩人の言葉

会計士のウィリアム・ブレイクは、仕事を求めアメリカ西部の街、マシーンへと赴く。街で殺人の濡れ衣をきせられたブレイクは逃亡の旅へ。道中出会ったネイティブ・アメリカンのノーボディと共に、次々と襲いかかる敵を打ち負かし、気づけば彼は西部劇さながらのアウトローへと変貌を遂げていた。

ニール・ヤングの全編ライブでコミカルに、残酷に、雄大に原アメリカを描く傑作叙事詩

本作は19世紀の米西部を舞台に、ウェスタンのスタイルでアメリカの原像を描く、構想7年の長編叙事詩。脚本はジャームッシュの書下ろし。全く斬新な西部劇を書き出すことに成功している。撮影は名手ロビー・ミューラーで、黒と白とグレーの比類なく美しい映像が広がる。

音楽は、ニール・ヤングの全編ライヴ。特設スタジオのあらゆる方向に巨大なスクリーンを設置し、ヤングはまるでサイレント映画を伴奏するように、即興で2時間以上も演奏した。それを数日行い、気に入ったところを使えばいいと、録音テープを置いて去ったという。

主演は『MINAMATA-ミナマタ-』のジョニー・デップ。デップと同じく、ジャームッシュが脚本の段階からキャスティングを想定して書いたのが、ノーボディ役のゲイリー・ファーマー。その他脇を固めるのはジョン・ハート、ガブリエル・バーン、イギー・ポップと個性派揃い。そしてウエスタンの伝説的スター、ロバート・ミッチャムが特別出演している。

――公開当時のパンフレット・チラシより一部抜粋

ミステリー・トレイン
Mystery Train

ジム・ジャームッシュ監督作品/1989年/アメリカ/110分/DCP/ビスタ

■監督・脚本 ジム・ジャームッシュ
■撮影 ロビー・ミュラー
■編集 メロディ・ロンドン
■音楽 ジョン・ルーリー

■出演 工藤夕貴/永瀬正敏/スクリーミン・ジェイ・ホーキンス/サンク・リー/ニコレッタ・ブラスキ/ エリザベス・ブラッコ/サイ・リチャードソン/トム・ヌーナン/ スティーヴン・ジョーンズ/ジョー・ストラマー/ スティーヴ・ブシェミ

■1989年カンヌ国際映画祭最優秀芸術貢献賞受賞

© Mystery Train, INC. 1989

【2022年3月25日まで上映】

エルビスの《ブルー・ムーン》が甘く流れるメンフィスの1夜 3組のストレンジャーが不思議な夢につつまれた…

〔FAR FROM YOKOHAMA ファー・フロム・ヨコハマ〕〔A GHOST ア・ゴースト〕〔LOST IN SPACE ロスト・イン・スペース〕と名づけられた3話の物語の人物たちが互いに知らないまま、別々に、同じ夜汽車を見て、エルビスの≪ブルー・ムーン≫を聞き、そして翌朝1発の銃声を耳にする。映画のプロローグでエルビスが歌う≪ミステリー・トレイン≫とともに走りくる列車が、エピローグで、ジュニア・パーカーが歌う≪ミステリー・トレイン≫とともに走り去るワンナイト・イン・メンフィスの物語。

ユーモアと詩情とやさしさあふれるジャームッシュの傑作!

舞台は黒人ブルースの歴史が脈々と生きているミュージシャンの心のふるさとテネシー州メンフィス。ロックンロールが誕生し、エルビス神話が今も生きつづけている。3組のストレンジャーが<同時パズル進行>で展開する物語は、随所に仕掛けられたさりげない工夫でおかしさが倍増していく。カンヌの上映で爆笑と喝采を浴び、最優秀芸術貢献賞を受賞。映画祭のアイドルとなった工藤夕貴をはじめ、キャスティングはジャームッシュ本人がそれぞれのイメージから脚本を書いただけあって全員が見事にはまり役となっている。

撮影のロビー・ミューラーをはじめ、スタッフはジャームッシュが臨んだ最高の布陣。日本ビクターの全額出資による製作で、ビクター音産がジャームッシュに完全な自由を保証して完成した制作姿勢が世界の映画界の好感を呼んだ。

――公開当時のパンフレット・チラシより一部抜粋

コーヒー&シガレッツ
Coffee & Cigarettes

ジム・ジャームッシュ監督作品/2003年/アメリカ/97分/DCP/ビスタ

■監督・脚本 ジム・ジャームッシュ
■撮影 フレデリック・エルムズ/エレン・クラス/ロビー・ミューラー/トム・ディチロ
■プロダクション・デザイナー マーク・フリードバーグ/トム・ジャームッシュ/ダン・ビショップ
■編集 ジェイ・ラビノウィッツ/メロディ・ロンドン/テリー・カッツ/ジム・ジャームッシュ

■出演 ロベルト・ベニーニ/スティーヴン・ライト/ジョイ・リー/サンキ・リー/スティーヴ・ブシェミ/イギー・ポップ/トム・ウェイツ/ジョー・リガーノ/ ヴィニー・ヴェラ/ヴィニー・ヴェラ・Jr/ルネ・フレンチ/E・J・ロドリゲス/アレックス・デスカス/イザック・ド・バンコレ/ケイト・ブランシェット/メグ・ホワイト/ジャック・ホワイト/アルフレッド・モリーナ/スティーヴ・クーガン/GZA/RZA/ビル・マーレイ/ビル・ライス/テイラー・ミード

■2003年ヴェネチア国際映画祭特別招待作品/トロント国際映画祭スペシャル・プレゼンテーション部門出品/トライベッカ映画祭正式出品/2004年モスクワ国際映画祭正式出品/2005年インディペンデント・スピリット賞助演女優賞ノミネーション(ケイト・ブランシェット)

© Smokescreen Inc.2003 All Rights Reserved

【2022年3月25日まで上映】

一杯のコーヒー、一服のタバコ、「ほっ」と幸せな時間

”コーヒー”と”タバコ”にまつわる愛すべき11のストーリーを連ねた珠玉の掌篇集。コーヒーを飲みながら、タバコを吸いながら、様々な登場人物たちが、どうでも良さそうで、良くない、でもひとクセある会話を繰り広げていく。流れる音楽と個性豊かな登場人物たちの会話に耳を傾けているうちに、いつの間にかスクリーンに引き込まれて心地よい気分になっていく…。

カフェを舞台に繰り広げられる、”コーヒー”と”タバコ”にまつわる至福のリラックス・ムービー

本作は86年から18年に渡り、ジャームッシュ監督がサイドワークとして撮りためてきた、ファン待望の"伝説の一作”である。11のストーリーは、それぞれ撮影時期・場所は異なるものの、時空を越えて各エビソードを連結するユーモアがある”仕掛け”が随所に見受けられるなど、ジャームッシュ作品独特の遊びごころのある楽しい逸品となった。

トム・ウェイツ、イギー・ポップ、ビル・マーレイ、スティーブ・ブシェミ、ケイト・ブランシェットなどなど、ジャームッシュ作品常連の俳優からミュージシャンまで、個性派揃いの面々が、見事な異色組み合わせで次々に登場するのも見どころのひとつ。彼らの多くは、"自分自身”を演じているが、あくまでもストーリーはフィクションで、それぞれの性格や出演作によって役作りが行われたという。

ジャームッシュ作品を語る上で欠かせないのが、劇中で使用する魅力的な音楽の数々。『ミステリートレイン』ではエルヴィス・プレスリーを、『ナイト・オン・ザ・プラネット』では本作品でも登場するトム・ウェイツ、『デッドマン』ではニール・ヤングを起用するなど、彼の音楽への強いこだわりが感じられる。本作では、トム・ウェイツに加え、イギー・ポップをはじめ、ジャンルを越えたアーティストを集め、どこか緩やかでファニーな空気感を漂わせている。

――公開当時のパンフレット・チラシより一部抜粋

ナイト・オン・ザ・プラネット
Night on Earth

ジム・ジャームッシュ監督作品/1991年/アメリカ/128分/DCP/ビスタ

■監督・脚本・製作 ジム・ジャームッシュ
■撮影 フレデリック・エルムス
■編集 ジェイ・ラビノヴィッツ
■音楽 トム・ウェイツ

■出演 ウィノナ・ライダー/ジーナ・ローランズ/アーミン・ミューラー=スタール/ジャンカルロ・エスポジト/ロージー・ペレス/イザック・ド・バンコレ/ベアトリス・ダル/ロベルト・ベニーニ/パオロ・ボナチェッリ/マッティ・ペロンパー/カリ・バーナネン/サカリ・クオスマネン/トミ・サルメラ

■1992年インディペンデント・スピリット賞撮影賞受賞

© 1991 Locus Solus Inc.

【2022年3月25日まで上映】

LA発、ヘルシンキ行――地球の夜の十字路で、5都市同時のタクシードライブ

5つの都市でタクシー運転手5人が乗客を乗せて走る。LAではキャスティングディレクターのヴィクトリアが運転手コーキーに女優業を勧める。ニューヨークでは黒人男性ヨーヨーが勤務初日の移民ヘルムートに代わってタクシーを運転する。パリではコートジボワール出身のイザークが盲目の女性客を乗せる。ローマでは神父を乗せたおしゃべり運転手ジーノが一方的に懺悔を始める。そしてヘルシンキではミカが3人の酔っ払いを乗せる。

小さなタクシーの中で人の絆が優しく紡がれる…鬼才ジム・ジャームッシュが5つの都市で織りなすオムニバス

本作はジャームッシュ監督長編第5作。ファニーな魅力とポエジーにあふれ、誰でも大いに笑い楽しめる作品として人気を博した。それまで積み重ねてきた実験と挑戦の展開が随所に見られ、そんな集積がのびやかに飛翔した、ジャームッシュの新時代を感じさせる作品。トム・ウェイツの歌とともに、宇宙から地球に接近し、5つの都市に入っていく鮮やかなオープニングもその一例と言えよう。

音楽・歌は『ダウン・バイ・ロー』に出演以来、ジャームッシュ映画でおなじみのトム・ウェイツのオリジナル曲。20℃のL.A.から-30℃のヘルシンキまで、5都市にまたがる撮影は、全編オール・ロケ。日本語題は、原題「Night on Earth」と同じ“地球の上の夜”を意味し、発音の明快な「ナイト・オン・ザ・プラネット」にジャームッシュの同意で決定した。

「ナイト・オン・ザ・プラネット」という映画には意義や意味などない。
モラルもなければ教訓もない。
何かがあるとすれば、この、地球というプラネットの、
日常のささやかなディテールに、時折、見出されることのある、
偶然のような美しいものがあるだけだ

●ジム・ジャームッシュ (東京、92年3月13日)


――公開当時のパンフレット・チラシより一部抜粋