【2021/7/17(土)~7/23(金)】『すばらしき世界』『浅田家!』

もっさ

今週の早稲田松竹は邦画『すばらしき世界』と『浅田家!』の二本立てをお届けいたします。

『すばらしき世界』は、元殺人犯・三上正夫が刑期を終えて出所した後、社会でもがきながら懸命に生きる姿が描かれます。原案となったのは『復讐するは我にあり』で知られる直木賞作家・佐木隆三のノンフィクション小説「身分帳」。身分帳とは、刑務所の受刑者の経歴を事細かに記した個人台帳のようなもの。作品のモデルとなった人物が自身の身分帳の写しを佐木さんのところに送り、これで小説を書いてほしいと頼まれたことがきっかけで執筆されたのだそうです。

西川美和監督がこの原作の存在を知ったのは、佐木隆三さんが亡くなった際の新聞紙面に載った訃報記事。記事の中で、作家の古川薫さんが「佐木さんの代表作は『復讐するは我にあり』とされているけれども、自分としては『身分帳』が彼の真骨頂だと思う」と書かれていたのを目にしたのがきっかけだったそうです。記事の掲載当時(2015年)は絶版状態だったため古書を取り寄せて読んだという西川監督。この面白い小説を映画化すれば、きっと本も復刊されて、この面白さにもう一度気付いてもらえるんじゃないかという思いが本作の出発点だったと語っています。その目論見通り、現在では書店にたくさん並んでおります。

『浅田家!』は写真家・浅田政志さんの半生をもとに、彼と彼を支える家族の姿が描かれています。浅田さんが家族とともに消防士やバンドマン、レーサーなど、さまざまな役になりきって撮影した写真集『浅田家』は、木村伊兵衛写真賞を受賞。書店で見かけた方も多いのではないでしょうか? その後、浅田さんは東日本大震災の被災地で写真洗浄のボランティアに参加し、現地の様子を記録した『アルバムのチカラ』を発表。映画はこの2冊の写真集を原案に綴られています。

この企画のオファーが届いたのは、数々の家族の物語を手掛けてきた中野量太監督。事前取材の際、特に印象的だったのは浅野さんの兄・幸宏さんの言葉だったそうです。浅田さんが撮影する度に、撮影場所を交渉して用意するなど振り回されているお兄さん。「苦労させられてばっかりだ、と言いながらどうして手伝うんですか?」と尋ねると、「だって、父ちゃん母ちゃんが楽しそうだから。喜ぶから。」というシンプルな答えが。中野監督は「お兄さんのその言葉がすべてだと思いました。家族の関係性がその一言で成立する。この家族をどういうふうに描けばいいのか、お兄さんから答えを教えてもらいました。」と語っています。

どちらも全くタイプの違う物語ですが、そこにはたくさんの思いやりに溢れています。犯罪を犯した者の社会復帰の難しさや、大震災で流れた哀しい涙は、まぎれもない現実。だけど、前科者と知りながらも普通に接してくれる周囲の人や、家族や傷ついた人のために奮闘してくれる人たちが確かにいるのです。そして、彼らの物語を丁寧に映画として紡ぎあげる監督たち。作品はもちろんですが、その全てに感動を覚えてしまいます。

人と人との距離が遠くなってしまいがちな今だからこそ、その思いやりの数々が、より一層心に響くのかもしれません。沢山の方に、この思いやりが伝わればいいなと思います。

浅田家!
The Asadas

中野量太監督作品/2020年/日本/127分/DCP/シネスコ

■監督 中野量太
■原案 浅田政志「浅田家」「アルバムのチカラ」(赤々舎刊)
■脚本 中野量太/菅野友恵
■撮影 山崎裕典
■編集 上野聡一
■音楽 渡邊崇

■出演 二宮和也/妻夫木聡/平田満/風吹ジュン/黒木華/菅田将暉/渡辺真起子/北村有起哉/野波麻帆/池谷のぶえ/後藤由依良

■2021年日本アカデミー賞助演女優賞受賞・作品賞ほか6部門ノミネート/ブルーリボン賞監督賞受賞

©2020「浅田家!」製作委員会

【2021年7月17日から7月23日まで上映】

それは、一生に一枚の家族写真。

幼いころ、写真好きの父からカメラを譲ってもらった政志は、昔から写真を撮るのが大好きだった。そんな彼が、家族全員を巻き込んで、消防士、レーサー、ヒーロー、大食い選手権…。それぞれが“なりたかった職業”“やってみたかったこと”をテーマにコスプレし、その姿を撮影したユニークすぎる≪家族写真≫が、なんと写真界の芥川賞・木村伊兵衛写真賞を受賞! 受賞をきっかけに日本中の家族から撮影依頼を受け、写真家としてようやく軌道に乗り始めたとき、東日本大震災が起こる――。

一枚の写真のチカラを信じて、「家族」を撮り続けた一人の写真家と、彼を信じ、支え続けた「家族」の≪実話≫。

父、母、兄、自分の4人家族を被写体に、様々なシチュエーションでコスプレして撮影し、ユニークな《家族写真》を世に送り出した写真家・浅田政志。本作は、その写真集「浅田家」と、東日本大震災の津波で泥だらけになった写真を洗浄し元の持ち主に返すボランティア活動に参加し、作業に励む人々を約2年間にわたって撮影した「アルバムのチカラ」の2冊の写真集を原案に、『湯を沸かすほどの熱い愛』の中野量太監督が、実話に基づき独自の目線で紡いだオリジナルストーリー作品だ。浅田の半生と彼を支えた家族をユーモアたっぷりに温かく描き、なぜ彼が“家族”というあまりにも身近な存在を被写体として選んだのか、そして撮り続けるのか。一人の写真家の人生を通して《家族の絆》《写真が持つチカラ》を色濃く映し出す。

主人公・浅田政志を演じるのは、『硫黄島からの手紙』『母と暮せば』の二宮和也。政志の兄を『悪人』『怒り』の妻夫木聡。その他、父役に平田満、母役に風吹ジュン、政志の幼なじみの若奈役に黒木華、政志がボランティアで出会う大学院生・小野役に菅田将暉など、豪華俳優陣が脇を固める。

すばらしき世界
Under The Open Sky

西川美和監督作品/2021年/日本/126分/DCP/ビスタ

■監督・脚本 西川美和
■原案 佐木隆三『身分帳』(講談社文庫刊)
■撮影 笠松則通
■編集 宮島竜治
■音楽 林正樹

■出演 役所広司/仲野太賀/六角精児/北村有起哉/白竜/キムラ緑子/長澤まさみ/安田成美/梶芽衣子/橋爪功

■第56回シカゴ国際映画祭観客賞・最優秀演技賞受賞/第47回シアトル国際映画祭観客賞受賞/第45回トロント国際映画祭正式出品

©佐木隆三/2021「すばらしき世界」製作委員会

【2021年7月17日から7月23日まで上映】

この世界は生きづらく、あたたかい。

東京下町の片隅で暮らす三上正夫は、見た目は強面でカッと頭に血がのぼりやすい性格だが、真っ直ぐなくらい優しく、困っている人がいると放っておけない男。しかし彼は、人生の大半を刑務所で過ごしてきた元殺人犯だった。社会のレールから外れながらも、何とかまっとうに生きようと悪戦苦闘する三上に、若手テレビマンの津乃田龍太郎と吉澤遥が番組のネタにしようとすり寄ってくる。やがて三上の壮絶な過去と人懐こくて気が置けない今の姿を追ううちに、津乃田は思いもよらないものを目撃していく…。

主演 役所広司×監督 西川美和が贈る問題作。実在の男を通して「社会」と「人間」の今をえぐる。

『ゆれる』『ディア・ドクター』などで数多くの映画賞を受賞し、今や日本映画界で最も新作が待ち望まれる監督のひとりとなった西川美和。これまで一貫して自身の原案、オリジナル脚本に基づく作品を発表してきた西川監督が、直木賞作家・佐木隆三のノンフィクション小説「身分帳」に惚れ込み、長編映画としては初の原作ものに挑んだ。小説の時代設定を現代に置き換え、実在の人物をモデルとした主人公・三上の数奇な人生を通して、人間の愛おしさや痛々しさ、社会の光と影をあぶり出す問題作である。

主演を務めるのは本作『すばらしき世界』で第56回シカゴ国際映画祭インターナショナルコンペティション部門にて最優秀演技賞を受賞した当代随一の名優、役所広司。その他、共演に仲野太賀、長澤まさみ、橋爪功、梶芽衣子、六角精児、北村有起哉、白竜、キムラ緑子、安田成美らが名を連ね、名実ともに豪華なキャスト陣が西川監督のもとに集結した。