そう聞かれたとしたら、即座に答えられるものだろうか?
私はきっと答えに詰まるだろう。
将来の夢か?自分の生き方のスタイルか?血気盛んな理想に先走りする考えか?
いやそんなものは抽象的でくだらない事かもしれない…。
そして私は考えた末、「答えが詰まるところに答えがあるように思う」と自信無く答えるだろうか。
きっと、“大切なもの”というのは言葉に表そうとすればこぼれ落ちてしまうものなのだ。
今週上映の2本、「南極料理人」と「ディア・ドクター」は、
その“大切なもの”をそっと私たちに語りかけてきてくれる。
両作品に共通しているのは、人生の目標、生きる意義、
一人の人間の生き方といった大仰なことではない。
普段の生活に隠れがちになっている、しかしそれゆえに大事なこと、がテーマになっている。
私たちが大切なことを問われた時、それは人との関係や
衣食住といった身近な事柄に落ち着くのではないだろうか。
理想や目標を立て、それに向かって邁進することも大切かもしれない。
時にはそのために色々な身近なものを切り捨てなければならないこともある。
だが、私たちが生きていくためにはその身近なものが必ず必要なのだ。
普段私たちがおろそかにしがちなもの、軽く考えているもの、
そういうものをみつめ直すきっかけになるかもしれない作品に出会えたことに感謝したい。
南極料理人
(2009年 日本 125分 ビスタ/SR)
2010年2月6日から2月12日まで上映
■監督・脚本 沖田修一
■原作 西村淳『面白南極料理人』(新潮文庫、春風社刊)
■出演 堺雅人/生瀬勝久/きたろう/高良健吾/豊原功補/西田尚美/古館寛治/小浜正寛/墨田大輔/小野花梨/小出早織/宇梶剛士/嶋田久作
生物はおろか、ウィルスさえ生存できない極寒の地、南極。内陸の山頂に位置する南極ドームふじ基地では、観測隊員8人が共同生活を送っていた。そのうちの1人、海上保安庁から派遣された西村の仕事は、隊員のために毎日料理を作ること。使える食糧が限られた環境だが、できる限りの努力をして、手間暇惜しまず料理を作る。「お昼です!美味しい美味しいおにぎりと、あっつあっつの豚汁ができました!」
優しいまなざしで隊員たちが食べる姿をながめる西村。そんな彼も、日本で妻と8歳の娘、生まれたばかりの息子が待っている父親である。西村だけではない、隊員それぞれに、恋人や家族、大切な人がいる。14,000キロの彼方に…。
「ここが電車とかで通えたらよかったのにな」。これは、南極という土地で究極の単身赴任生活を送る彼らの、面白おかしい、ちょっぴり切ない物語。
こんなにおなかの空く映画があるだろうか。おにぎり、ラーメン、巨大な伊勢海老のフライなどなど、思わず涎もしたたるような料理と、おいしそうに食べる隊員たち。極寒の地、日本から遥かかなたへの単身赴任という厳しい環境の中、「おいしいごはん」は重要なニッチを占めているのだ。
原作は、実際に南極観測隊員として調理を担当していた西村淳のエッセイ『面白南極料理人』。料理を担当したのは、「かもめ食堂」「めがね」などで印象深い料理を手掛けてきたフードスタイリスト・飯島直美と、フードプランナー・榑谷孝子。「男が食べたくなる料理」をコンセプトに、思わず腹の虫がなる料理の数々を考案した。
ディア・ドクター
(2008年 日本 127分 ビスタ/SR)
2010年2月6日から2月12日まで上映
■監督・脚本・原作 西川美和
■出演 笑福亭鶴瓶/瑛太/余貴美子/井川遥/香川照之/八千草薫/松重豊/岩松了/笹野高史/中村勘三郎
伊野治…美しい棚田の風景広がる小さな村から一人の医師が失踪した。刑事の捜査で明らかになるのは、村の唯一の医者であり、誰からも慕われていた男の素性を、村民は何一つ知らなかったことだ。経歴はおろか出身地さえ曖昧なその医師の、不可解な行動が浮かび上がってくる―。
2ヶ月前、東京の医大を卒業した相馬は、研修医としてその村に赴任してきた。コンビニ一つなく、住民の半分は高齢者という過疎の地。そこで相馬は、伊野という1人の勤務医と出会う。
彼は村で唯一の医者として、日々の診察、薬の処方、果てはボランティアの訪問健康診断まで全てをすべてを一手に引き受けていた。村の人々はそんな伊野のことを「神さま仏さま」よりも頼りにしている。都会と僻地との生活の違いに戸惑っていた相馬も、村中から「先生」と頼りにされている伊野の献身的な働きぶりにしだいに共感していく。
そんな折、かづ子という一人暮らしの未亡人が倒れた。自分の体がそう長くないことを感づいている彼女は伊野に懇願する。「先生、一緒に嘘、ついてくださいよ」。やがて伊野がかづ子の嘘を引き受けたとき、もうひとつの嘘が浮かび上がってくる。伊野自身がひた隠しにしていた嘘が―。
国内主要映画賞を総なめにした『ゆれる』から三年ぶり三作目の作品となるのが、この『ディア・ドクター』である。西川監督は脚本執筆にあたり、自らの目で現場を観察し、僻地医療という今日的なテーマを映画に色濃く反映させた。
キャスト・スタッフへの医療指導も行われ、スクリーン上の緊迫感に表れている。その他、本当の民家での撮影・実際の診察所を訪問しイメージの確認がなされるなどのこだわりが随所に見られ、映画にリアリティを与えている。スケジュールギリギリまでロケ地探しを行った西川監督の狙い通り、田園地帯の美しい風景は印象深く、映画に彩りを添えた。
(エンシン)