2017.12.07

【スタッフコラム】シネマと生き物たち byミ・ナミ

Vol.4 悲しくも強い、鳥という生き物

先日、早稲田松竹に思わぬ「珍客」が迷い込みました。私が受付に入っていた時のこと。目の前を灰色のふわふわした物体が横切ったのです。何と、一羽のハトがカウンターに留まっていたのです! 気づいたスタッフたちがどやどやとやってきても、おびえることなく泰然とロビーを歩いています。その後、男性スタッフの大きな手にそっと抱えられ、無事に外へと戻っていきました。生き物偏愛家にとって、嬉しすぎるハプニングでありました。
 
さて映画の中の鳥と言えば、ヒッチコック『鳥』で主人公たちを襲撃するカモメやカラスが有名です。しかし私にとって鳥は、凶暴なだけではなく、繊細という印象が強くあります。幼い頃に読んだオスカー・ワイルド「幸福な王子」などの多くの童話に描かれた可哀そうな姿が、鮮烈に残っているせいかもしれません。

そこから思い出される映画が、ウニー・ルコント監督『冬の小鳥』です。主人公の少女ジニは、ある寒い日、大好きな父に連れられるまま児童養護施設に預けられます。「自分は捨てられたんじゃない。父さんは必ず戻ってくる。」そう言って、ジニは頑なに里親を拒みます。一羽の傷ついた小鳥を拾うと、「元気にならなくちゃ」と励ましながら世話をしますが、小鳥はほどなく死んでしまいます。

やがて残酷なことに、ジニはもう父は迎えに来ないことを悟るのです。彼女はせっかく埋めた小鳥の墓を掘り返し、小さな亡き骸を放り捨て、今度は自らを穴に埋めようとするのでした。行き場を失った自分を葬るかのように。まだ幼いジニが、理屈もなく取ったその行動に、見ているこちらの胸もつぶれそうになります。

韓国とフランスの合作である本作は、原題が『Brand New Life』、韓国の公開タイトルは『旅行者』でした。いずれも前へ進むような、ポジティブな響きがあります。それに比べると、邦題『冬の小鳥』はやや悲しげに受け取られるかもしれません。生き物が遠く離れた地域を往復することを「渡り」と呼びますが、最も発達した「渡り」をするのが鳥類で、しかもとても過酷な旅であると言われています。鳥は儚げでありながら、芯の強い生き物なのです。最愛の家族から見捨てられたジニは、寂しさを抱えながらも小さく凍てついた羽根を懸命に広げて飛び立とうとします。冬を越えて「小鳥」が生き抜こうとするからこそ、観客は涙を誘われるのだと思います。

(ミ・ナミ)