2019.03.06

【スタッフコラム】ごくごく私的偏愛女優たち by甘利類

その32  仲間由紀恵と『リング0 バースデイ』

中田秀夫監督によるJホラーの傑作『リング』(98)の黒髪を垂らした幽霊・山村貞子は、今や日本では最も認知されたホラーアイコンかもしれません。あまりにも有名になってしまったので、恐怖の対象から反転して「キモかわいい」キャラとしてグッズ化されたり、パロディの対象として扱われることも少なくありません。ホラーファンとしてその風潮は別に悪いことではないと判ってはいるのですが、個人的にはどうしても抵抗感がぬぐえません。『リング0 バースデイ』(2000 鶴田法男監督)で語られる怨霊 貞子誕生の顛末は、胸が引き裂かれるほど痛切な悲劇だからです。

本作で描かれるのは女優を目指し18歳で上京して劇団に入った貞子が、残酷な運命に導かれ無残な最期を遂げてしまうまでの物語です。新作公演の主演女優が急死してしまい、急遽主役に抜擢された研究生の貞子でしたが、他の俳優を差し置いていきなり大役を任されたことへの妬みと、彼女が入ってきてから頻繁に起こる怪奇現象のせいで、劇団員たちから冷たく責めるようなまなざしを向けられてしまいます。何とか気丈に耐える貞子は、唯一自分を信じて味方してくれる音効担当の遠藤に、自分には亡霊が見えてしまうと告白するのですが…。

貞子を演じるのは本作で主演デビューした仲間由紀恵。後のどちらかというと明るいイメージとは対照的なその暗く張りつめたような美貌と繊細な声は、もはやこの世に彼女の居場所はどこにもないだろう、と思わされてしまう程の痛ましさと哀しみを湛えています。演技の巧拙を超え、悲劇的な運命を背負ってしまった貞子が憑依しているとしか思えない程の存在感には圧倒されます(撮影当時あまりにも役にのめりこんでしまい、毎日殺される夢を見てしまうほど精神的に追いつめられていた、と後のインタビューで語っています)。唯一貞子を信じてくれた遠藤にだけ見せた天使のような(もしかしたらあんなに安らかに笑えたのは、一生であの瞬間だけだったのではないかと思える程の)笑顔が、迫害された末に待ち受けている地獄のような末路を容赦なく際立たせます。

貞子に限らず、ホラー映画に出てくる怪物の多くがこの世界と相いれず、はみだしてしまった存在です。彼らに憐れみと自分に重なる部分を感じるからこそ、僕はホラー映画を見つづけているのだ、と『リング0 バースデイ』は改めて思い出させてくれる大切な映画です。

(甘利類)