2020.09.30

【スタッフコラム】ごくごく私的偏愛女優たち by甘利類

その43 関根恵子と『遊び』

70年代初め、倒産寸前だった大映でデビューした関根恵子の初期出演作は(愛情を込めていいますが)ほとんどが狂っています。高校生の妊娠を扱ったデビュー作『高校生ブルース』(70年。陰惨なクライマックスがトラウマ必至)、題名が内容を100%伝えている『おさな妻』(70)、不幸がてんこ盛りのジェットコースタームービー『高校生心中 純愛』(71)など、この時期の作品はまだ若かった関根恵子が頻繁にヌードになっているのも含め、大映の倒産間際のなりふり構わない経営方針が独特のどぎついグルーヴを生んでいます(個人的に嫌いではないのですが、万人にお薦めできるかというと、ちょっと…)。とはいえ、傑作とは得てしてそんな量産体制の中から生まれてくるものです。増村保造監督『遊び』(71)は、一連のシリーズの流れにありながらも隔絶した、純度の高いラブストーリーです。

関根恵子が演じるのは、厳しい家庭環境の中で身を粉にして工場で働く16歳の少女。大門正明演じる少年に街で声をかけたられたことで、生まれて初めて恋愛感情が芽生えます。少年は実際にはケチなチンピラで、少女をアニキに売るために近づいたに過ぎなかったのですが、いつしか少女のまっすぐな想いに惹かれていき、アニキに殺される覚悟で少女と逃げる決心をします。受動的だった少女がいつしか意志的に少年を選びとり、破滅的なまでに情熱的な生を謳歌するまでの軌跡。関根恵子は他の女優が考えられない程に役柄を見事に肉体化しており、全身から発する切実な熱気は見ていて胸が詰まるほどです(本作を最後に引退するつもりだった、というのも大きいのかもしれません)。

本作を製作した直後に大映は倒産してしまったものの、これを境に関根恵子は今までのイメージを脱した大人の女優に変わっていきます。本作は日本映画の黄金期の最後の輝きと、一人の女優(人間)の青春の刹那を記録した稀有な作品なのです。私はこの映画に衝撃を受けた事をきっかけに、増村保造監督と関根恵子の作品を追いかけるようになりました。

関根恵子はその後結婚を機に高橋惠子に改名。以降も現在まで第一線で活躍しているのはご存知の通り。他の出演作では同じく増村とタッグを組んだ『動脈列島』(75)や神代辰巳『恋文』(85)もおすすめです。

(甘利類)