2020.08.13

【スタッフコラム】二十四節気・七十二候とボク by上田

二十四節気:立秋(りっしゅう)、次候:寒蝉鳴(ひぐらしなく)

やっと梅雨が明けて夏らしい気候なってきましたね。そうかと思えば、暦ではもう立秋を過ぎてしまいました。梅雨が長引いた分、最も暑い時期も例年よりは少し短くなるでしょうか。暑いのは嫌だと言ってもあまり短いようではそれも寂しいですね。

さてヒグラシのなく頃といえば、お盆や夏の終わりのイメージがありますが、ヒグラシは意外と夏の始めからいるので、実際は晩夏に目立って鳴いているのはツクツクボウシの方が多い気がします。日本のアニメ作品などでは夏のシーンの導入部に、蝉の声がこれでもかというほど盛大にSE(効果音)として挿入されていますが、蝉がいない地域に暮らしている海外のアニメ好きにとっては全く聞いたことのない不安定な音なので、日本人だけに共通の心理的なSEだと思っていたという笑い話を聞いたことがあります。確かに夏の暑い時期の日中、ずっと騒音を聞いているのだと思うと、我々も変な環境に慣れてしまっているのかもしれませんね。

蝉と言えば松尾芭蕉の「閑さや岩にしみ入蝉の声」という有名な句があります。「閑さ」「岩」「蝉の声」すべてにぴったりくる感じがしますよね。蝉の声の響きが徐々に消失して、いつしか静寂を感じさせるこの句のようにイリュージョンを味わわせてくれる句は珍しいですが、優れた句にはその句に引き起こされた感覚がそのまま句とともに保存されてしまうものがあります。言ってみれば想像した風景や感覚をそのままビデオテープに保存していつでも再生できるような感じと言いましょうか。(しかも俳句のすごいのは、その句以外では同じような感覚を引き起こされることは決してないということです。超現実的)。

芭蕉のこの句が書かれたのは『奥の細道』ですが、紀行文とともに俳句を載せるこういった文学作品は現代でいうと旅行の写真をのせるブログにも似ている気がします。最近ではyoutuberブームに続いて、ビデオで日常を記録するV-LOG(video+blog)も若い世代を中心に流行しているらしいですが、ここにはいつの時代も変わらない人々の願望が隠されているように思います。「奥の細道」の道行を歩みこの句の詠まれた山寺の写真を撮る聖地巡礼みたいなものもあるらしいですが、こうしたブログにも人々を旅に向かわせるような力がありそうです。何か体験したことを記述したい、記録したい、感じたことを伝えたいと言った願望は人間にとって原初的なものだと思いますが、技術が進化して形は変わってもずっと変わらないこの語り部的な一面は、大事にしたいなによりも人間的な部分の一つかもしれませんね。

(上田)