2025.04.17

【スタッフコラム】シネマと生き物たち byミ・ナミ

今週の早稲田松竹は、インド映画3作品『ジガルタンダ』『ジガルタンダ・ダブルX』『カッティ 刃物と水道管』を上映中です。『ジガルタンダ・ダブルX』の冒頭に出る断り書き「いかなる動物にも危害は加えていない」には、思わず安堵の笑みがこぼれてしまいます。インドの主たる宗教であるヒンドゥー教は多神教で色々な動物を神聖なものとするためなのか、映画などで動物が畏敬の念をもって描かれているように思います。

私がインド映画の中に登場する動物たちの雄姿に最も心を奪われた作品といえば、S・S・ラージャマウリ監督の『RRR』でした。1920年のインドが舞台の本作。当時植民地支配していたイギリスに立ち向かう部族の長・ビームと、大義のためイギリス政府に志願した警察官ラーマという二人の青年を主役に、あらゆる意味でとてつもない展開が繰り広げられるスペクタクルムービーでした。ファンの方々にとっては全シーンが伝説的だと思いますが、生き物偏愛家である私の鑑賞ポイントとしては、ビームがさらわれた仲間の少女を救うべく、動物を率いてイギリス総督の邸宅へ乗り込む場面。トラ、オオカミ、クマ、(おそらく)ハイエナなどが威勢よく敵を攻撃する、動物大好きというラージャマウリ監督による圧巻のバトルシークエンスになっています。森で生まれ育った武闘派ビームが、人間ではなく動物とともに悪を退治しようとするさまは、何か森の神々そのものを背負っているかのような威厳すら感じてしまいます。

中でもやはり目立つのはトラではないでしょうか。インドの国獣であるとともに、ファンの間ではビームを演じた俳優NTR Jr.のかつてのニックネーム「ヤングタイガー」を象徴しているかのような、大変存在感の強い動物です。さらに、攻撃的な動物の中に草食動物シカが目立っていることにも大変興味をそそられます。インドにはバラシンガジカ(インドヌマジカ)という在来種のシカがいますが、さらに調べてみると、インドでは古代より、シカのリーダーが人間の王を悔い改めさせた「鹿の王ナンディヤ」という話があるそうです。もちろんビームは松明を振り下ろして猛獣たちを操る役回りなのですが、トラやシカをかわしてイギリス軍にけしかける姿は、動物のリーダーであるとともに人間が遠く及ばない自然の力を借りて共闘しているようにも感じられます。

ところでこれを書いている今、まだ私は『ジガルタンダ・ダブルX』本編を観ていないのですが、主要人物の一人である映画大好きギャングのシーザーが、何やらゾウと浅からぬ因縁があるようで…。本作のキャッチコピーは、「クリント・イーストウッドとサタジット・レイが出会う南インド」。イーストウッドが馬ならばこちらは巨大なゾウといったところなのかもしれません。何というビッグスケール! 今から鑑賞を大変楽しみにしています。

(ミ・ナミ)

©Stone Bench Films ©Five Star Creations ©Invenio Origin