2025.02.27

【スタッフコラム】わが職場の日常 by KANI-ZO

「早稲田松竹の音」

何かと月末って忙しいですよね。月末の早稲田松竹の日常も、事務所内がパソコンのクリック音やタイピング音がカタカタと忙しさに比例して賑やかになっていきます。その中心となる番組表チラシ部隊が、プログラムに合わせて、見やすいレイアウトをカチカチと入稿に向けて微調整を続けます。B5サイズのチラシに翌月の豪華ラインアップをピチピチに収める作業に私は毎度驚いてしまいます。チラシ表紙のデザイン部隊も映画のビジュアルを見ながら、その月の早稲田松竹の顔となるスペシャルな案を静かに練っています。また、掲示物や印刷物の作成も同時進行でプリンターがピーピー、カッチャンカッチャン小気味よいリズムを刻みます。ホームページ作成部隊は、資料をペラペラめくりながら原稿の作成や情報を集めていきます。クラシック作品などは、公開当時のパンフレットの言い回しや尖りすぎたキャッチコピーが出てきます。そんな話題でワイワイガヤガヤ賑やかに盛り上がるスタッフたちは、忙しい事務所内をコーラスのように盛り立ててくれるのです。

ワセダショウチク・サウンドに包まれながら私は、チラシを設置して頂く劇場への発送の準備をしています。早稲田松竹オリジナルの封筒に、宛名ラベルをペタペタ。毎月デザインが変わる切手シールを楽しみながら、またもペタペタ。送り状を折って、部数ごとに仕分けをして、完成したチラシをスムーズに発送できるよう虎視眈々と準備を進めています。

そんな日常の音が気になり始めたきっかけは、先日移動映写の仕事で出会ったフランスのアニメーション映画でした。シルヴァン・ショメ監督『ベルヴィル・ランデブー」(2002)です。早稲田松竹では私の勤める前の2006年に上映しています。主人公は、世界最大の自転車競技、ツール・ド・フランスを目指すシャンピオンと、両親のいない彼の育ての親であり自転車のコーチでもあるおばあちゃん。孫の悲願だった大会当日、事件が起きます。シャンピオンはレース中に謎の黒服の男達に誘拐されてしまい、おばあちゃんは愛犬ブルーノと共に、孫奪還の大冒険が始まるのです。

上映会に集まった子供たちの後ろから上映を見ていたのですが、私の心も鷲掴みされてしまいました。シャンピオンの鍛え抜かれた身体は、基本的にはマッチ棒のように細いのですが、フクラハギやフトモモは誇張してプリプリ、誘拐犯は肩幅すごくて黒ずくめのジャミラのようだったり、おばあちゃんは容赦なく愛犬を車のタイヤにしたりと…どれも強烈な印象を植え付けます。自転車の細かなディティールは、メカ好きの私の心をくすぐります。おばあちゃんがシャンピオンの自転車のメンテナンスもしていて、その姿は職人そのものです。

そして、特に印象が強いのは、手助けしてくれる“三つ子の伝説の歌手”の家で、愛犬と眠るおばあちゃんのシーンでした。サラサラした雨音、ゲロゲロ大合唱のカエルの鳴き声、定期的に過ぎ去る電車のゴーっと流れる轟音、ワオーンと響く愛犬の鳴き声。それは、セリフがほとんどないこの映画で心配するおばあちゃんのソワソワした心情を伝えます。三つ子も加わり繰り広げられるシャンピオン奪還の大冒険は、いつだって音に溢れ、私の心をスイングさせました。

日常に戻り忙しい月末に差し掛かりましたが、映画の大冒険がいっぱいいっぱいになりがちな私の背中をそっと後押ししてくれたのです。早稲田松竹の事務所にも様々な音が溢れ、そのオリジナルミュージックを奏でながら、月末を乗り越えているのだなと気がついた今日この頃でした。

(KANI-ZO)