2024.06.13

【スタッフコラム】シネマと生き物たち byミ・ナミ

このコラムでもたびたび登場している、映画の中の犬を称えるカンヌ国際映画祭の一部門、パルム・ドッグ賞。昨年の受賞者、『落下の解剖学』でスヌープを演じたメッシ君は俳優顔負けの迫真の演技力で大きな話題をさらい、今年の第96回アカデミー賞授賞式でも客席にいる賢そうな姿がカメラにとらえられていました。

さて、パルム・ドッグ賞が創設されたのは今から20年以上前の2001年。以来毎年、映画祭で上映された映画の中で優秀な演技を披露した1匹またはグループの実写もしくはアニメーションの犬に “PALM DOG” と記された革の首輪が贈られているそうです。でもパルム・ドッグ賞が生まれるよりももっと以前に、最高の演技で世界中を魅了した犬がいます。本日取り上げる作品は、1974年の犬映画、ジョー・キャンプ監督の『ベンジー』です。

ベンジーは空き家に住み着いた野良犬で、近所のチャプマン家の幼い兄妹、ポールとシンディをはじめとした人間たちに可愛がられています。ところがある日、ポールたち兄妹を何者かが誘拐。そして監禁場所は、ベンジーが根城にしていた空き家だったのです。ベンジーは何とか大人たちに知らせて二人を助けようと奔走します。

疾走したかと思いきや漫画のキャラのように立ち止まったり、銃を持った誘拐犯を巻いたりと、愛する兄妹を助けるべく大活躍するベンジー。ゴミ捨て場を漁っていて出逢った白い犬(マルチーズでしょうか)のティファニーとのラブラインもロマンティックですし、走る度にふわふわと揺れる毛や垂れた耳、上目遣いの目もたまらなく可愛らしいです。演じたのは、ミニチュア・プードル、コッカー・スパニエル、シュナウザーのミックス犬であるヒギンズ君。『ベンジー』は大ヒットし、シリーズ化され、彼も1960年代から70年代にかけてお茶の間のアイドルとなったそうです。ヒギンズ君を発掘したトレイナーの方によれば、彼はとびぬけて賢い犬だったそうで、表情を通して幅広い感情を伝えることができたというから驚きです。もしもパルム・ドッグ賞があったなら、確実にヒギンズ君も受賞者として名が挙がっていたに違いありません。ちなみにヒギンズ君は18歳で亡くなり、『ベンジーの愛』以降は、娘さんのベンジーンちゃんがベンジーとして演技をしていました。

改めてパルム・ドッグ賞の受賞作を見てみると、私も観ていない作品が多いことが分かりました。そしてきっと、ここには挙げられていない作品で知られざる活躍する犬たちもまた、多数いるのでしょう。映画の中の“名優”探しは、まだまだ続きそうです。

(ミ・ナミ)