2016.07.22
【スタッフコラム】二十四節気・七十二候とボク by上田
二十四節気:大暑(たいしょ)、初候:桐始結花(きりはじめてはなをむすぶ)
大暑。夏真っ盛り。立秋がちょうど8月8日ですから、あと半月もすれば暦の上では秋ということになりますが、一番暑いのがこの頃ですね。桐の花は初夏に咲きます。咲いた桐の花は淡く、輪郭がかすんでみえることから、遠くから眺めるのが素敵だといいと言いますが、昔と違って一つの木を遠くから眺められる風景がなかなか都会では見られないのが残念ですね。落葉は秋、実が落ちるのは冬、と四季折々の姿を見せることから、常に詩人の心を動かしていたようです。
学名はPaulownia tomentosa。アンナ・パブロヴナ(1795~1865)というロシアの大公女であり、オランダ国王ウィレム2世の皇后(今は関係の悪い両国ですが、この結婚はオランダとロシアの関係をかなり良好にしたそう)に捧げられています。献名したのは、長崎で植物などの研究を行い、パブロヴナに後援をうけていたシーボルト。シーボルトは幕末に日本の地図を持ち出したことから、オランダ、ロシアのスパイ説なんかもあり、しばしば開国させたのはペリーではなく、ここらの勢力だと噂されることもあるそうです。桐の花というのが、元々日本では皇族や士族が身に着ける桐花紋に使われていること(現在は日本国政府の紋章やパスポートにも)から考えても、「日本をパブロヴナに捧げる」(なんて)怖い話も想像しちゃいますね。
このあたりの王室の話は小説や映画にも恋愛物語が多く、アンナ・パブロヴナの祖母であるロシア女帝エカチェリーナ2世(ジョセフ・フォン・スタンバーグ監督『恋のページェント』)や、ウィーン会議で活躍した兄のアレクサンドル一世(『戦争と平和』、エリック・シャレル監督『会議は踊る』)は有名です。「桐一葉落ちて天下の秋を知る」(※1)という言葉もあるように、現実は恋物語だけでなく、王室ですから、時代の流れとともに暗殺で命を失ったり、革命によりロシア皇帝は廃位されてしまったりと、血なまぐさい話は耐えませんが、パブロヴナの血脈は途絶えることなく現在のオランダ国王までつながっているそうですよ。一方、シーボルトがヨーロッパに持ち帰った桐の花や、藤の花はヨーロッパに広まり、今ではパリなどでも並木が綺麗だそうです。やはり高貴な花として昔から重宝されていた花に眠っている物語は驚くような広がりを持っていますね。
(上田)
※1、夏は青々と繁っている桐の大きい葉が、他の木よりも早く落葉を迎える姿は、秋の訪れとともに、衰亡の兆しの象徴ともされています。