2016.12.08

【スタッフコラム】ドラマばかり見ている。 byかわうそ

素晴らしいドラマを見ました。山田太一ドラマスペシャル『五年目のひとり』です。久しぶりに「いいドラマを観たなあ」と胸が熱くなりました。山田太一、82歳。まったく衰えないその筆力に、うならされるばかりです。

東日本大震災から5年。心の傷が癒えることなく孤独を抱えたままの男が、一人の少女と出会い、交流することで再生する物語。男はたまたま訪れた中学校の文化祭で、ダンスパフォーマンスを披露した一人の少女に目を奪われます。そして、彼女を追いかけて行き「君が一番キレイだった」と声をかける。かなり怪しげな出だしではありますが、彼がそう言うのには、ある理由があるのです。

山田太一のつむぐセリフは、とても品が良く、リズム感もあり、聞いていてスッと気持ちが入ってきます。説明的だと感じさせられるところが一切ありません。さらに、物語を飛躍させるところは一気に描く。例えば、冒頭の出会いのシーン。木崎はなぜ亜美に声をかけたのか? 説明はほとんどありませんが、印象的な言葉をパッと放ち、視聴者の心を一気につかむのです。開始10分もたたないうちに、ひきこまれ、最後まで物語に没頭してしまいました。

俳優陣も山田脚本にしっかりと応えています。木崎を演じるのは渡辺謙。もはや「世界のケン・ワタナベ」となったスーパースターですが、今でもこうして単発ドラマにも出演していて、うれしい限り。ちなみにわたしが初めて渡辺謙を観たのはドラマ『鍵師』シリーズでした。懐かしい…。亜美とのシーンはまるで青春映画のように爽やかに、過去の記憶に苦悩するシーンではグッと重く演じていて、そのさじ加減は絶妙です。

さらに注目すべきは、ヒロインの亜美を演じた蒔田彩珠。以前、ドラマ『重版出来!』でゲスト出演しているのを観たときから、雰囲気のある女優さんだなあと気にはなっていたのですが、本作では実質、準主役という役どころでその魅力が開花。芯の強そうな存在感がバツグンです。まだ14歳という若さですが、渡辺謙と二人きりのシーンも堂々と演じていました。彼女は来年あたりもっと活躍するのではないか、とわたしは勝手に睨んでいます。

鑑賞後の余韻も本当に素晴らしく…と、ここまで褒めちぎっておいて恐縮なのですが、単発のスペシャルドラマで、放送も終了しまっていて、現在観ることができません。ただ、文化庁芸術祭参加作品となっていて、受賞すれば再放送もあるかもしれませんので、ご覧いただける機会があるときは、ぜひともお見逃しなく。

(かわうそ)