2023.06.22

【スタッフコラム】わが職場の日常 by KANI-ZO

「暗闇の中に光を見出す (FIND WHERE LIGHT IN DARKNESS LIES)」

このタイトルは、先月当館で上映した『エンパイア・オブ・ライト』の劇中の映画館の壁に刻まれていた言葉です。映画館の一従業員として、私の心に刺さりました。サム・メンデス監督は、ロックダウンの際にこの作品を執筆し、立ち止まってしまった映画と映画館、さらに自身の少年時代に思いを紡いだそうです。

この作品には、心落ち着く印象的なシーンがいくつもありました。海辺にある味わい深い立派な映画館、その上にある空っぽで抜け殻のようなダンスホール、広大な海と浜辺の景色、夜空にきらめく打ち上げ花火、そして銀幕に浮かび上がる映画と職人の気配が漂う映写室。そのどれもが、せわしなく過ぎる日常の中で、一息つけるようなマジカルな力を持っているから、心が安らぐのではと感じました。

私は時折、出張映写をしているのですが、とある体育館で行った親子イベントで、『映画 すみっコぐらし とびだす絵本とひみつのコ』を上映した時のこと。上映前に、客席後方の映写機の横で目にした光景がとても印象的でした。上映前にテンションの上がった子供たちが平均台を渡り始めると、続々と他の子たちも集まり始めます。すぐそばには仮設スクリーンや電源コードがあるので私は安全確保に走ります。上映寸前には、ぐずって泣いてしまった子供を抱きかかえるお母さんが退席しようとしています。
「泣くなら帰るよ!」
「いや~!すみっコぐらし観たかった~。えーん」
上映前から大騒ぎでにぎやかです。暗くなり映画が始まるとみんな小さな声で応援しながら観ています。クライマックスの仲間との別れのシーンでは子供たちのすすり泣く声が聞こえます。映写のおじさんたちもウルウルしながら後方で観ていました。

ある高校の講堂で『さかなのこ』を上映したときには、300人の学生たちの笑い声がドッカンドッカン響きます。エンドロールが始まると拍手が続き、劇中で活躍していた俳優のクレジットが流れるとさらに拍手は大きくなります。映画が学生たちの心を動かし、講堂内のエモーショナルで素敵な空気に、映写窓から見ている私の心も熱くなってしまいました。そんな、なかなか映画館では体験できない観客の反応を、ダイレクトに感じることができるのが出張映写の魅力です。

映画にはやっぱりマジカルな力があるんだなと感じます。体育館や講堂、野外、そして劇場や映画館と場所は様々ありますが、暗闇の中で一筋の光が映し出す映画が、観る者を非日常へといざないます。映写窓を覗くと、映画に留まらず想像を超えた光に出会えることがあります。だから私は、映画や映写が好きで、これからも素敵な光に出会えると良いなと、しみじみ思う今日この頃です。

(KANI-ZO)

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