2023.03.02

【スタッフコラム】しかまる。の暮らしメモ byしかまる。

第26回「自分を解き放つ服」

大寒波にみまわれた2月も終わり、だんだんと暖かくなってきましたね。そんな季節の変わり目、いまだニットたちが収まりきらないほどパンパンになったクローゼットを整理しつつ、新たに迎え入れるワードローブを検討中です。

私が今一番気になっているアイテムはジーンズ。ただいま当館で上映中の『スペンサー ダイアナの決意』を観てからというもの、ダイアナ元皇太子妃のジーンズスタイルの虜になっているのです。

この作品でクリステン・スチュワートが演じるダイアナの衣装の一部はシャネルのアーカイブから提供されたもの。王室一族で過ごすクリスマスの3日間のためだけに用意されたドレスたちはため息がでるほど素敵なものばかりです。しかし、王室のしきたりに馴染めず、常に世間の目にさらされ気が休まるところのないダイアナにとっては、どんなドレスも自分を閉じ込める檻のようなものでしかありません。誰もが憧れるプリンセスがここまでドレスを苦々しい顔で着る作品を私はまだ観たことがないほど、クリステン・スチュワートが表現するダイアナの孤独と苦悩は真に迫るものがあります。

そんな苦難のドレスとは対照的に、作中でダイアナが自分らしくいられる瞬間に着ているのはいつだってジーンズ。愛する息子たちと遊んだり、自分の一番の理解者と語らったり、様々なしがらみから一時自分を解放できるアイテムとして映画の中で象徴的に使われています。史実として、王室を出た後の彼女の装いはカジュアルなものが増え、ジーンズの他にもスタジャンやスウェットパンツなど、これまでのロイヤルファッションを覆す革命的なアイテムをいち早く取り入れています。また、彼女のルックをまとめた書籍「ダイアナ妃ルックブック メッセージを秘めたファッション史」(グラフィック社)ではラルフローレンのシャツにジーンズ、足元はローファーといったキレイめカジュアルのお手本のようなコーデも紹介されています。

この作品を観るまで、私が知っているダイアナ元皇太子妃は世間で認識されているところの“悲劇のプリンセス”という側面だけでした。けれど、彼女のエレガンスとカジュアルとのバランスが絶妙なスタイルの数々に触れ、ダイアナのファッションが、現在も人々を魅了する理由が少し分かったような気がします。強く美しく、ファッションで自分を表現し続けてきたダイアナ元皇太子妃。そんな彼女の影を追いかけるように、今年の春はお気に入りのジーンズを手に入れたいと思うしかまる。なのでした。

(しかまる。)