2018.01.04

【スタッフコラム】ごくごく私的偏愛女優たち by甘利類

その20 エヴリーヌ・ブイックスと『ヴィバラビィ』

エヴリーヌは『男と女』(66)で知られる(昔も今も批評的評価は不当に低いけど私は大好きな)クロード・ルルーシュ監督の80年代を公私で支えたミューズです。大作『愛と哀しみのボレロ』(81)を皮切りに、エディット・ピアフを演じた『恋に生きた女ピアフ』(83)や『遠い日の家族』(85/彼女が唐突に○○するクライマックスが衝撃的なホロコーストを巡る愛憎劇)などのルルーシュ作品に相次いで出演。頬骨の高い正統派の美女ながら、さりげない好演を引き出しているところに彼の愛情が感じられて微笑ましいです(とはいえ実際の結婚期間は5年ほどなのですが)。

そんなエヴリーヌ出演のルルーシュ映画で間違いなく最大の問題作が『ヴィバラビィ』(84/日本未公開、VHSリリースのみ)です。本作はルルーシュの最初で最後のSF映画、しかもエイリアン・アブダクトものです!

大手多国籍企業の社長ミシェル・ピコリはある日帰宅途中に突然失踪。時同じくして新進女優のエヴリーヌも忽然と姿を消してしまいます。ピコリの妻シャーロット・ランプリングやエヴリーヌの夫ジャン=ルイ・トランティニャンらが心配する中、三日後にひょっこり二人とも帰ってくるのですが、どちらにも失踪した時間の記憶はなく、一同は困惑するばかり(この時まで二人には全く面識がありませんでした)。マスコミの寵児になった二人はその後も再三に渡って皆の前から忽然と消え、極度に衰弱した状態で帰還したり、頭部に謎の切開手術の跡を残した姿でサハラ砂漠から救出されたりします。さらに二人は、東西冷戦下の核の恐怖を終結せよという宇宙人からのメッセージを託されたと話し始めるのですが…。

ネタばれは避けますが、メタフィクショナルで重層的な語り口によって明かされるぶっとんだ真相と展開には誰もが唖然としてしまうはず。上記に加えてアヌーク・エーメやシャルル・アズナヴール、デビュー直後のドニ・ラヴァンまで出る謎の豪華キャストも凄まじくドープです。

とはいえ、音楽と映像が流麗に絡む演出マジックはさすがのルルーシュ節。格別に素晴らしいのはやはりエヴリーヌの出演シーンで、演劇学校の学生だった彼女が講師のトランティニャンにいきなり求婚する場面や、この二人が親密に見つめ合いながら歌う演劇のシークエンスはルルーシュ作品でも随一の美しさを誇ります。ルルーシュの再評価のためにも、是非とも日本でBD/DVD化してほしい魅惑のカルトフィルムです。

(甘利類)