2018.03.29

【スタッフコラム】早稲田松竹・トロピカル・ダンディー byジャック

『ベイビー・ドライバー』のデボラ

早稲田松竹でも上映しました、エドガー・ライト監督の『ベイビー・ドライバー』。音楽と映像がシンクロする本編が素晴らしいのはもちろん、使用されている曲のチョイスにもやはり目がいってしまいます。私が一番気になったのはグラムロックの代名詞、T. Rexがエレキギターではなく、アコースティックギターとパーカッションの2人組体制だったTyrannosaurus Rex名義の楽曲「Debora」が使われていたことです。

T. Rexの音楽からは想像できないくらいシンプルですが、マーク・ボランの色っぽい声と、その後ろで鬼のように叩かれるボンゴ(打楽器)は、のちのエレクトリックな楽曲にも劣らないくらい素晴らしいと思っています。そういえば、アコースティックギター時代の楽曲が映画に使われているのを初めてきいたかもしれません。少し調べてみましたが、おそらくこの時代の楽曲が使われたのは初めてなのではないでしょうか。

さて、その『ベイビー・ドライバー』でリリー・ジェームズ演じるヒロイン・デボラ(Debora)が、自分の名前と同じタイトルの曲が少ないと話していました。T. Rexの他にはBeckというミュージシャンの「Debra」という曲があるくらいだろうということだったので、なんとなく応援する(?)意味を込めて、私も「Debora」という曲を探してみました。

私がぱっと思いついたのは、以前もコラムで紹介しました『イレイザーヘッド』の劇中曲「In Heaven」の作曲者・ピーター・アイヴァースの『TERMINAL LOVE』というアルバムです。その中に「Deborah」という曲がありました。どちらかといえば彼の中ではロックテイストを感じる曲なのでもしかしたら、気に入ってくれるかもしれません。そしてなんとサザンソウルでははずせない大スター、ウィルソン・ピケットも「Deborah」という曲を歌っています! 不勉強ながら私は知りませんでした…。

どうやら「Deborah」という後ろにhがついている楽曲はそこそこあるようですが、「Debora」という曲はもしかしたら、マーク・ボランが歌うこの曲だけなのかもしれません。曲から役名を考えたのか、それとも役名から曲を探していったのかわかりませんが、この微妙な違いの中から「Debora」が選ばれていったのかと想像すると(単に監督が好きなだけかもしれませんが)、映画作りの細やかな作りこみをちらっと覗くことでできるような気がします。このセンスなんか好きだな!

(ジャック)