2018.04.12

【スタッフコラム】シネマと生き物たち byミ・ナミ

Vol.7 動物界のヒロイン

私が早稲田松竹に勤め始めて、もうすぐ一年が経ちます。このコラムでは、イヌからスタートし、爬虫類、鳥、タヌキと扱ってきました。しかし、あるペットの王道がまだ登場していませんでした。今回は満を持して、人気においてイヌと双璧をなす生き物―ネコについて語ります。

中国映画界の巨匠チェン・カイコーが、いにしえの中国王朝・唐の華やかさをスクリーンに表現した『空海―KU-KAI― 美しき王妃の謎』。歴史モノに反応が鈍い私が勇んで駆けつけたのは、邦題にそぐわぬ破格のネコ映画だと耳にしたからです。映画は唐へ渡った青年時代の僧侶・空海が、詩人の白楽天とひょんなことから知り合うところから始まります。二人は都を騒がす皇帝の怪死について調査に乗り出すと、“傾国の美女”と呼ばれた楊貴妃の最期にまつわる謎にたどりつきます。そして、歴史の混乱に葬られたある事件が明るみになっていくのでした…。

本作のネコ映画としての最大の魅力は、人語を操り、心に怨念の炎を抱く妖しい黒猫の存在感と表情の豊かさです。彼が捧げた悲しい愛に、最後は大いに泣かされました。故事成語に「ネコに九生あり」という言葉があります。それほどネコは執念深い(意味合いには諸説あり)などと人間は勝手に言いますが、ひとえに愛情の裏返し。ともに過ごした動物に、ここまで愛されるなら本望と言うものでしょう。映画の原題は『妖猫伝』なのだから、もっと黒猫を見せて欲しかったです…!

どんな映画でも、主役でも端役でも、ネコが登場した瞬間のクライマックス感は、堪えようもありません。ネコが可愛く見えるのは、小さな顔に対して、目が大きく作られていることが一因であるそうです。生まれながらにして少女漫画のヒロインのビジュアルとは、恐れ入ります。言うなれば、すでに「見られる」存在として神に作りこまれた、天性の役者なのです。このコーナーでなかなかネコに触れられなかったのも、映画を語ろうとしても、結局、ネコしか目に入らないからです。ヒト科の動物に過ぎない空海と白楽天がそうだったように、書き手の私も、ネコの肉球で転がされているようなものなのでした。

(ミ・ナミ)