2018.04.19

【スタッフコラム】ごくごく私的偏愛女優たち by甘利類

その23 『抱きしめたい』

今回はひとりの女優ではなく、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』『ザ・ウォーク』の巨匠 ロバート・ゼメキス監督の愛すべきデビュー作『抱きしめたい』(78)という作品自体を取り上げたいと思います。本作はビートルズの楽曲が満載のチャーミングなドタバタコメディ(原題 “I wanna Hold Your Hand”)。物語は1964年人気絶頂だったビートルズがアメリカに初上陸し、人気番組エド・サリヴァン・ショーに出演する前日から始まります。

ニュージャージーの田舎町に住むビートルズ大好きなハイティーンの女の子たちは、偶然彼らの宿泊先を知り、同級生に無免許運転させたリムジンに乗ってNYへ。ホテル前はすでにファンたちでごった返していましたが、混乱に乗じて何とか潜入に成功。しかしホテル内は当然警備が張り巡らされており、ここに警備員たちとのデッドヒートの火ぶたが切って落とされます。彼女たちはビートルズに会い、さらには観覧倍率70倍とも言われるエド・サリヴァン・ショーを生で見られるのでしょうか?

追跡劇の果て、ビートルズの宿泊室に入るのにひとり成功する女の子がいます。演じるのはデ・パルマ監督作品でお馴染みのナンシー・アレン。部屋が無人だと知るや欲望を爆発させ、ポールのベースに触っては悶絶、彼らが使ったスプーン、フォークを懐に入れては悶絶、さらにはヘアブラシに絡まった頭髪を顔にこすりつけて失神寸前になる様が最高におかしい。色っぽいのに子どもっぽい彼女の個性がよく生かされています。

魅力的なのは彼女だけではありません。ぽっちゃり体形を生かして警備員たちを痛快に蹴散らすのは、のちに『バック~』で主人公の姉を演じるウェンディ・ジョー・スパーバー。彼女が公衆電話からチケットプレゼントクイズに回答するため、走行中の車から飛び出してアスファルトを豪快に転がる場面は本当にすごい! さらにはのちに『レイジング・ブル』で脚光を浴びるテレサ・サルダナがショーのスタッフへの裏金づくりのため、ただの布切れをビートルズメンバーのベットシーツだと偽ってファンに売りつけたり(バレてあり金ごとカツアゲされる)、背伸びし過ぎ感ばりばりの娼婦ルック? で歩き回るなど甲斐甲斐しい努力をする姿は何とも微笑ましい限り。

散り散りになっていた彼女たちが大団円を迎えるトリッキーな展開は、のちの傑作『バック~』を既に彷彿とさせるものがあります。楽曲権利関係のためか日本では未だにDVD/BD化されていませんが、アナーキーかつ瑞々しい輝きに満ちた大傑作。出来ることなら当館でも上映したい!

(甘利類)