2018.08.02
【スタッフコラム】ごくごく私的偏愛女優たち by甘利類
その26 エリザベス・ハートマンと『大人になれば…』
当館でも上映したソフィア・コッポラ監督『The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめ』のリメイク元である『白い肌の異常な夜』(71)で、イーストウッドと結婚して都会に旅立つ矢先に悲劇を迎える教師を演じていたのがエリザベス・ハートマンです。彼と出会ったことで女性であることに目覚める様は瑞々しく可憐ですが、それ故にクライマックスの悲痛な表情と絶叫はトラウマ級のインパクトです。
残酷な話ですが、この痛ましい役はもう一歩でスターになれたはずの彼女の不幸なキャリアを象徴している気がします。デビュー作は『いつか見た青い空』(65)。ハートマン演じる盲者とシドニー・ポワチエとの人種を超えた愛情を描いたこの感動作で当時最年少にしてアカデミー主演女優賞にノミネート。気取らない美しさと演技力で将来を期待されましたが、その後の出演作は『白い肌~』も含めて残念な役ばかりです。
例えば名門女子大を卒業した仲良しグループのその後を描いた『グループ』(66)では、傲慢な夫と育児に忙殺されてひたすら疲弊する人妻。『フィクサー』(68)では帝政ロシア時代、ユダヤ人の主人公に振られた腹いせに彼を殺人犯に仕立て上げる性悪女。『ウォーキング・トール』(73)では排他的な南部の村で奮闘する保安官の夫を気遣う優しい妻役ですが、村人たちにマシンガンでハチの巣にされていました。嗚呼…。実人生ではうつ病を患い、80年代初めには女優業を引退。闘病生活の果てにアパートから飛び降り、43歳の若さでこの世を去ってしまいました。もう本当にかわいそう。
そんな彼女の短い女優人生でおそらく最もはじけた役をやっているのが『The Beguiled~』のソフィア・コッポラ監督の父親、フランシス・フォード・コッポラ監督の『大人になれば…』(67)。オタク青年の初恋をポップに描いたこの作品では主人公にひとめぼれされる女優の卵役。彼の熱烈な告白を受け入れながら土壇場できまぐれに追い出すなどイジワル極まりない仕打ちを繰り返すのに、不思議と嫌味にならない女性を楽しそうに演じています。コロコロ変わるカラフルな衣装の着こなしも華麗(コッポラも思うままに着せ替えできて楽しそうだ)で、イエローのワンピースを着た彼女が颯爽と現れる姿にラヴィン・スプーンフルの主題曲がかかるオープニングがとにかく鮮烈でカッコいい! その不遇だった女優人生を憂えるファンを少しホッとさせてくれる愛すべき小品です。
(甘利類)