2018.10.04

【スタッフコラム】ごくごく私的偏愛女優たち by甘利類

その28 イザベル・アジャーニと『ポゼッション』(ズラウスキー映画の狂気の女たち①)

ポーランド出身の映画作家アンジェイ・ズラウスキーは、ヒステリックに感情を爆発させる女と男の愛憎と闘争と、そこから導かれる世界の崩壊を描き続けた怪物的存在です。難解なのに過剰にグルーヴィーな作風なので、リンチやホドロフスキーと並ぶキング・オブ・カルトに祭り上げられてもおかしくないのに、日本では概ね冷淡に扱われていて大ファンとして残念至極です(好きな監督はズラウスキーですと言ってしまい、相手にぽかんとされたことも一度や二度ではありません)。広く観られるべき怪作多数ですが、やはり代表作『ポゼッション』(81)は外せません。

舞台は西ドイツの閑静な住宅街。単身赴任から帰ったマルクは、妻アンナの態度がよそよそしいことに気づき、浮気を疑って探偵を雇います。しかし調査途中で探偵は失踪。マルクは自身でアンナのアパートに行きますが、そこにいた浮気相手は人あらざるベトベトしたタコのような怪物だったのです…。アンナは怪物と不義を重ねるだけでなく、終始ヒステリックに泣きわめき、肉切り包丁を自分の首に突き刺したり、痙攣しながら体中から謎の体液をたれ流すなど常軌を逸した行動(憑依現象)を加速させます。

演じるのはイザベル・アジャーニ。トリュフォー『アデルの恋の物語』(75)で見せた清冽な狂気を何百倍の濃さでドロドロに煮詰めたような大怪演です。彼女の狂気が感染したように周囲の人物も次第に狂い出し、マルクは突如人格が変貌して凶行を重ねてバイクで暴走。何故かアンナの分身が出現したり、路上ではレッカー車がひっくり返ったり血みどろの銃撃が発生したり。異様な疾走感でなだれ込む黙示録的な光景には開いた口がふさがりません。

こんな無茶苦茶な展開(まぁズラウスキーの映画はどれも無茶苦茶ですが)に観客が不思議と納得してしまうのも、アジャーニの美しさのたまものです。狂えば狂うほど人間離れした美しさを増していく様は浮気相手以上にバケモノのようです。確かにこんな人が隣にいたら正常な神経では耐え切れず、どうにかなってしまうかもしれません。『ポゼッション』は狂気の愛に生きる女を演じ続けたアジャーニの頂点をなす作品です。

実際に本人も相当に奇行が目立つ人らしく、まさに当たり役ですが、アジャーニファンとしては、『イザベル・アジャーニの女泥棒』(77)、『可愛いだけじゃダメかしら』(93)など名コメディアンヌぶりを発揮したライトな作品もお口直しに是非おすすめしたいです。

(甘利類)