2018.12.27
【スタッフコラム】シネマと生き物たち byミ・ナミ
『オペレーション・メコン』の警察犬
2018年も残すことあと数日となりました。そこで今年の干支「戌年」にちなみ、今年観た作品の中で、一番頑張っていたイヌに想いを馳せたいと思います。それはダンテ・ラム監督の『オペレーション・メコン』の警察犬、哮天(シャオテン)。2016年に東京国際映画祭で上映されていたときすでに話題になっていた本作を、今年遅ればせながら観たわけですが、彼ほど私の涙を搾り取った存在はいませんでした。
『オペレーション・メコン』は、2011年10月、アジア最大の麻薬取引地帯と言われる黄金の三角地帯で中国籍の2艘の商船が襲われ、乗組員13人全員が惨殺、大量の麻薬だけが発見された「メコン河中国船襲撃事件」を基にしています。劇中、麻薬組織を撲滅すべく結成された公安チームは、ドローンなどの最新技術を駆使し、それぞれ神と天にちなんだ風格漂う異名で呼び合う凄腕ぞろい…という設定ですが、クスリとカネを渡すまいとしぶとく立ち回る麻薬組織に苦戦を強いられ、続々と命の危機に晒されます。そんな人間を尻目に機敏に活躍する哮天を見ているうち「むしろこの映画、ひたすらイヌを推したいのでは…!」と気付いたのです。
調べてみると、哮天はシェパードの一種、ベルジアン・シェパード・ドッグ・マリノアという犬種だそうです。オオカミの血を引く猟犬種ならではの引き締まった長い脚と品のある顔立ちが特徴です。シェパード種の中でも特に身体能力と頭の切れに長けているため、多くの国で警察犬や麻薬探知犬として活躍しています。それゆえ、麻薬組織との対決に駆り出される場面はもちろん、哮天はどの瞬間も凛々しさに破綻がなく、さらに、ふとしたときに垣間見える愛らしさがたまりません。ゴールデントライアングルの地図を囲んでの作戦会議に参加する哮天。チームの飼うイグアナ(この子も絶妙な可愛さ…!)に興味津々の哮天。麻薬組織との大事な対決を前にドッグフードをほおばる哮天…。そんな哮天のハイライトは、爆発する地雷原を駆け抜けるラストシーン。人間のために自らを犠牲にする姿は、全世界のイヌ派の慟哭と怒号を誘ったのではないでしょうか。
とはいえ、誰かのために働くイヌも、のんびりと暮らすイヌも尊い存在であることに違いはありません。人間を幸福にしてくれたすべてのイヌに最大の賛辞を送りつつ、戌年を終えたいと思います。
(ミ・ナミ)