2022.08.04

【スタッフコラム】へんてこコレクション byすみちゃん

ここ最近、立て続けに“なんかすごい走っている”へんてこ映画を観ました。アテネ・フランセ文化センターで上映をしていたマルセル・アヌーン監督の『春』(1970)では、ある女の子とおばあちゃんが一緒に暮らしている話と同時に、マイケル・ロンズデール演じる、ひたすら何かから逃げるように走りまくっている男の話が交互に描かれます。最後まで2つの話が関連しているのかは分からなかったのですが、とにかく走り慣れていなさそうな足取りのマイケル・ロンズデールが、悲壮感漂いながらも、森や草っぱらをひたすら走っている姿から目が離せませんでした。

一方で、ジャック・リヴェット監督の『メリー・ゴー・ラウンド』では、走り慣れた男女が登場します。ある日、エリザベスから呼び寄せられた妹のレオと元恋人のベンジャミンが、隠されたお金や誘拐されたエリザベスを巡って、金庫の番号探しやお互いの企てを疑っていくお話です。映画本編の流れとは関係なく(いや、もしかしたら心理的描写なのかもしれませんが)、ひたすらベンジャミンが森の中で何かから逃げるシーンがあります。ある女性が恐らくベンジャミンを追っているのですが、その女性はレオではなく別の女性で、何故追っているのかという説明はなく、とにかくこの走っているシーンが何度も登場します。謎多きこの映画の魅力に浸りつつも、ベンジャミンやその女性が俊敏に走り始めると、なぜか無性に眠くなってしまうのです!

そこでわたしは、同じようにひたすら走る映画を観ていても、眠くなる走りと眠くならない走りがあるのではないかと思ったのです。

『春』でのマイケル・ロンズデールは、いつコケてもおかしくないような不慣れな足取りだったので、何かが起こるその瞬間を見逃すまいとする自分がいました。そして、なんといってもマイケル・ロンズデールの表情がずっと疲れているところも魅力だったのではないかと思います。いつ彼が元気になるのか、この逃走の先に何があるのかが気になってしまうので、眠くならなかったのかもしれません。『メリー・ゴー・ラウンド』では、ベンジャミンを演じるジョー・ダレッサンドロの身体能力の高さゆえに、逃げ切れそうだという安心感をもたらしたのではないかと思います。また、同じ森が何度も出てくるので、さっき見た景色と一緒だから、きっと今回も大丈夫! という謎の想像力が働いた可能性もあります。

美しい動きとはまた違う、予測不可能な動きというものは、人を惹きつける魅力があるのかもしれませんね! だからこそわたしは映画を観続けているのではないかと思います。

(すみちゃん)

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