2022.06.02

【スタッフコラム】馬場・オブ・ザ・デッド by牛

第7回「見えない恐怖」と「見える恐怖」

有名な都市伝説で、「ベッドの下の男」というお話があります。1人暮らしのAの部屋に泊まりに来た友人B。Aはベッドに、Bは床で寝ていると、突然Bが外へ出ようと誘います。あまりにもしつこく誘うので、仕方なく部屋を出ると、Bは血相を変えて「ベッドの下に男がいる」と言った…というお話。きっと1度は聞いたことがあるのではないのでしょうか。気が付かなければただの平凡な日常も、ある異変に気付いてしまった瞬間、背筋の凍るような恐怖に襲われるのです。今回紹介するのは、リチャード・フライシャー監督『見えない恐怖』(71)という作品です。

ストーリーは、郊外の広いお屋敷で暮らすミア・ファロー演じる盲目の主人公サラ。ある日、サラが外出している間に、家にいた家族が何者かによって惨殺されてしまいます。目の見えない彼女は家に帰っても、その異変に気付くことができません。殺人鬼が潜む中で、彼女は無事でいることができるのか? というお話です。

スリラーであると同時に、秀逸なサスペンスでもある本作は、不穏な音楽と共に、何者かの足元を追っていくシーンからはじまります。これが主人公を恐怖に貶める殺人鬼なのですが、その後も一切顔は映らず、足元しか映りません。星の模様がついたウエスタンブーツを追っていくカメラは、その足元を通じて、少しずつその素性を露わにしていきます。

この作品でゾッとさせられるのは、「見えない」彼女がもたらす「見える」私たちへの恐怖体験。あまりにも唐突に、そして自然にカメラの中に登場する死体の姿に思わず息が詰まります。惨事があった後のガラスの破片が散乱している床や、背後のパイプから伝う血が混じった下水など、観客である私たちは気が付くことができても、盲目の主人公には気付くことができません。彼女が異変にいつ気が付いてしまうのだろうか? という緊張感、気付くまでのイヤ~な時間をハラハラと見守る居心地の悪さ、そして気付いてしまった瞬間の恐怖の叫びを是非ご覧頂きたいです。彼女の行く末はいかに!?

余談ですが、最近私は「アイスの実」にドハマりし、買い食いを続けた結果、気付かぬ内に体重が爆増していました。今でも体重計の上で背筋が凍ったあの瞬間が忘れられません。皆様も、気付かぬうちに恐怖が迫っているかもしれません。

(牛)