2019.09.04

【スタッフコラム】ごくごく私的偏愛女優たち by甘利類

その37 『想い出づくり。』の時代の女性たち

日本TVドラマ史上の金字塔「岸辺のアルバム」(77)や「ふぞろいの林檎たち」(83)で知られる脚本家 山田太一。社会の片隅で不器用に生きる人々の感情を丁寧に掬い取った彼の作品は今も多くの人に愛されています。残念ながらTVドラマの性質上現在見られないものが多いのですが、今まで視聴できた作品で最も好きなのは81年放映の「想い出づくり。」です。

主演は古手川祐子、田中裕子、森昌子の三人。会社勤めをする三人はこのまま何となく家庭に収まる前に何か大切な想い出が欲しい、という漠然とした気持ちを抱えて生きていますが、早く安定した結婚をするよう家族にも会社にも迫られることで各々に葛藤が生まれます。本作で何より驚かされるのは、放映当時の若い女性がどれほど露骨なプレッシャーの下に生きていたかが赤裸々に描かれているところ。娘の気持ちを理解しようともせず強引に見合い結婚を進めようとする田中裕子と森昌子の両親の言動や、古手川祐子の職場の上司が「君たち早く結婚しないと売れ残っちゃうぞ」と女性社員たちに向かって平然と口にする描写などには唖然とさせられます。

当時は「女性とクリスマスケーキは二十四を過ぎると値が落ちてしまう」というセクハラそのものの冗談が平然と世間に流通していました。ちょうど二十歳前後の娘が二人いた山田太一がこの状況に憤りを覚えたことから本作が生まれたそうです。そういった個人的な心情から出発したドラマだからこそ、しっかり時代の空気をつかんだ力強いシナリオが出来上がったのだと思います。とはいえ主人公三人の心情が今なお私たちにリアルに訴えるということは、とりもなおさずこれほど露骨でなくともこの種の抑圧が現在でも歴然とあることの証でもあり、そう考えるとかなり複雑な気持ちにもなってしまいます。

しかしながら、シリアスなだけのドラマでは決してありません。実際に役と同年齢だった女優三人の生き生きとしたやり取りは新鮮で愉しいですし、最終的に彼女たちがとる大胆な行動には同情すると同時に思わず笑ってしまいます。森昌子を東北弁で執拗に口説き落とそうとする加藤健一や、普段は温厚ながら愛娘古手川祐子の同棲相手でヒモの柴田恭兵に向って「刺すぞっ!」とナイフを向けてくる児玉清、娘の田中裕子に触発され急に家庭を捨ててホステスと駆け落ちする佐藤慶など、周囲の人間もやたらキャラ立ちしていていちいち面白い。また本作は当時22歳だった田中美佐子(当時の芸名は田中美佐)の本格的なデビュー作でもあります。一方的な柴田恭兵への想いからストーカー化、不釣り合いなとっぽい格好でたびたび登場して古手川祐子にゆるい狼藉を働く姿が初々しくてかわいいです。

(甘利類)