2022.05.12
【スタッフコラム】へんてこコレクション byすみちゃん
これまで数回に渡ってお送りしたへんてこコレクション~東南アジア編~ですが、最後にインドネシアについて書きたいと思います。
わたしがインドネシアに興味を持ったきっかけは、ガリン・ヌグロホ監督の映画『オペラジャワ』と『サタンジャワ』です。どちらの作品も今までに観たことのない美術や衣装、演出で、もっと詳しく知りたいと思うようになりました。ガリン・ヌグロホ監督はインドネシア出身で、どちらの映画もジャワ島にゆかりのある映画です。この映画の中の空気を直接感じてみたい! どんな場所なのか知りたい! と思い、2019年、ジャワ島へと向かいました。そこで出会った「ジャティラン(jathilan)」というお祭りで、わたしは魂を引っこ抜かれそうになった“へんてこ体験”をしたのです。
たまたまジョグジャカルタ近くでお祭りがあるということで参加した「ジャティラン(jathilan)」は、竹で編み込まれた馬を使い、ガムラン演奏に合わせてダンサーがリラックスしたような同じ動きで躍ります。ゴングや鉄琴、ドラムが一定のリズムとパターンを繰り返し、ヴォーカルがのびやかに歌い、次第に音楽のテンポが速くなり、ダンサーはトランス状態に陥ります。そして、トランス状態のダンサーには、動物の精霊や、場所の精霊、先祖の精霊が憑依するのです! 憑依した瞬間、ダンサーたちの表情は一変し、焦点は定まらず、ダンスはより自由なものとなります。特定の音楽に引き寄せられたり、お花や草を食べ始めたり、水浴びをし始めるなど、各自、憑依した精霊に従うかのように動くのです。最初はなんじゃこりゃ! と思って見ていましたが、人間が人間であることを忘れる瞬間を目の当たりにし、生命の赴くままに身体を動かすというのは、とても美しいと感じました。
このお祭りを取り仕切っているのがダラン(dalang)と呼ばれる人物で、精神的なリーダーとして常に存在しています。黒い服を身にまとい、ダンサーがトランス状態であることを示すためなのか、鞭を使用したパフォーマンスも行い、憑依した精霊をダンサーから引っこ抜いたりします。この時、ダンサーの中にいる精霊が外に出たくないからなのか分かりませんが、身体が痙攣したり、ダランから逃げようとしたりします。この魂のせめぎあいがおそらくこのお祭りの見どころで、観客やダンサーの家族たちは大盛り上がりです。
朝から夜まで、10名ほどの男性ダンサーの少年部、青年部、女性ダンサーの部、その後ちょっとした笑えるような演目(ここで私は踊らされました)、最後には大人の男性ダンサーの部で、ダンサー以外にもトランス状態になる人が続出し、カオスな状態となり終了となりました。
わたしはずっと見学をしていたのですが、一定のリズムで演奏されるガムランの音楽がまるで催眠術のように体内に響き、初めて自分の身体の中にある魂みたいなものを感じ、そしてその魂が頭から出ていきそうになるので、怖くて泣いてしまいました。「どうして泣いているの?」と優しくお祭りを案内してくれていたナニさんに聞かれても、私はうまく答えることが出来ませんでした。魂が抜けそうになるなんて、一体どうしたらよいの!? 実際、ダンサーの人たちは、踊っている間は意識が無くイベントの記憶がないそうです。すべての人がトランス状態に陥るわけではないため、演技として行っている人もいるそうなのですが、私ももしかしたら踊り続けていたらトランス状態になっていたかもしれません。その時私に降りてくる精霊はどんなだろうか? 日本生まれ日本育ちの私には、ジャティランダンサーたちの動きは出来ないだろうから、石とか岩の精霊が降りてきて、端っこでうずくまっちゃうかも? と想像を膨らませるのでした。(YouTubeでjathilanと調べると動画が沢山出てくるので、もしご興味あればご覧ください。)
(すみちゃん)