2019.06.12

【スタッフコラム】ごくごく私的偏愛女優たち by甘利類

その35 ゾー・ルンド(a.k.a ゾー・タマリス)と『天使の復讐』

猥雑でいかがわしくもカトリック的倫理感に貫かれた特異な作風で知られる映画作家アベル・フェラーラ。彼自身が演じるドリル殺人にとりつかれた男を描いた一般映画デビュー作『ドリラー・キラー』(79)は、笑える程狂った映像センスでカルト的な人気を誇りますが、次作『天使の復讐』(81)もなかなかの怪作です。

本作は二度も違う男に強姦されてしまった発話障害の女性タナの受難と復讐の物語です。心身ともに受けたショックで仕事もままならなくなっていたタナでしたが、路上でしつこくナンパして来た男をとっさに殺してしまってから突如覚醒。女性を食いものにするポン引きやチンピラを情け容赦なく血まつりに上げる連続射殺魔に変貌します。

前作のテイストに『狼よさらば』(74)を足したような内容は新鮮味に欠けますが、ヒロインのゾー・ルンド(本作ではゾー・タマリス名義)の存在感には特別な魅力があります。声が出せないハンディキャップに加えて華奢な身体と透き通るような肌、大きい瞳が印象的なその美貌は、前半こそ男たちからの好奇の目に晒され震えていますが、それだけにダニ男どもを粛清していく展開は痛快で、陰惨極まりないのに思わず応援したくなります。

フェラーラらしいオフビートなギャグも冴えわたっており、妙にほのぼのとした隣のおばさんとのやりとりや、死体の匂いを嗅ぎつけた犬を殺すために車道に引きずりこもうと奮闘する姿はバカバカしくて最高です。クライマックスの彼女の凶行は凄まじく、ギャグすれすれの大仰な演出ゆえに思わず笑ってしまいますが、そこまでエスカレートせざるを得なかった彼女の苦しみと怒りを思うと微かな胸の痛みを感じずにはいられません。『ドリラー・キラー』と同じく単なるB級暴力映画とは片付けられない不思議な作品です。

言葉を発さずとも情感豊かな名演を見せたゾー・ルンドは当時のフェラーラの恋人(殺人鬼役者カップルだ)。別れてからもフェラーラとの仕事上のパートナー関係は続き、『バッド・ルーテナント/刑事とドラッグとキリスト』(92)のシナリオをフェラーラと共同執筆(出演も)したほか、死の直前まで彼の作品の企画に協力していたようです。女優やモデル以外にも作家、政治活動、ミュージシャンもするマルチな才能だっただけに、37歳の若さで亡くなってしまったのはなんとも残念です。

近年アメリカでもリバイバル公開され根強い人気を証明した本作が日本のスクリーンにも凱旋し、タナの雄姿(雌姿?)が観られる日が来ること期待します(とりあえずDVD化して!)。

(甘利類)