2019.05.16

【スタッフコラム】早稲田松竹・トロピカル・ダンディー byジャック

『アンダー・ザ・シルバーレイク』の音楽

デヴィッド・ロバート・ミッチェル監督の新作『アンダー・ザ・シルバーレイク』は、様々な映画、音楽、そしてTVゲームと幅広くジャンルを横断しながら、主人公が遭遇した謎を解いていくのが圧巻でした。不思議と自分まで主人公と同じように、登場する色々な要素に、ついつい連想ゲームを始めてしまいます。そういえばフクロウのお面を被った殺人鬼の出てくる映画も確かあったような…などと、妄想が膨らんでいってしまう映画でした。

また使われている音楽も非常に興味深く、デヴィッド・フィンチャー監督の『ファイト・クラブ』で使われていたPixiesの「Where Is My Mind?」やジム・ジャームッシュ監督の『ブロークン・フラワーズ』で使われていたエチオピアのミュージシャンMulatu Astatkeの「Yekermo Sew」など私の好みの曲を当てられているかのようなチョイスでした。

その中でも印象的だったのが、「Baby」という曲です。シンプルなベースラインとコーラスが繰り返され、夢心地でありながらも切ない雰囲気に満ちているこの曲がまさか映画に使われているとは! Donnie & Joe Emersonの兄弟が1979年に作ったアルバム『Dreamin’ Wild』に含まれている曲で、完全自主製作だったため一部にしか出回らず、長い間全く日の目をみることがありませんでした。しかし2000年代後半になって有名コレクターがこのアルバムを発見し、ロサンゼルス出身のミュージシャン、Ariel Pinkがこの曲をカバーしたことで一躍有名になった曲です(私はカバー版からこの原曲を知りました)。

本編中では何の仕事をしているのかわからず(映像系?)、どことなくハリウッドでくすぶっている主人公と、女優でありながらもそれだけでは食べていくことができずコールガールをしている女性が二人っきりになったときにこの曲が流れます。ハリウッドで暮らし、華やかなパーティーやイベントに参加している彼らの、しかし実際はその裏側にある理想とは乖離した実生活と、「Baby」の優しくも切ない雰囲気、そしてDonnie & Joe Emersonのことを連想していくと、なぜだか少しジーンとしてしまいます。ただこれは全く本編とは関係なく、私が勝手に思っているだけかもしれませんが。

『Dreamin’ Wild』 Donnie & Joe Emerson(1979)

(ジャック)