2017.09.28
【スタッフコラム】シネマと生き物たち byミ・ナミ
Vol.2 生き物偏愛家の映画人を支える“名優”たち
スクリーンに生き物への偏愛が満ちていて、作品の出来も一級品。今回は、そんな生き物偏愛家の映画人と、彼らの作品の“レギュラー俳優陣”とも言うべき生き物たちについて語ります。
まず、祖国ユーゴスラヴィアでの内戦を背景にした作品で世に知られている、エミール・クストリッツァ監督は外せません。『アンダーグラウンド』では、動物園が爆撃に遭い動物たちが次々と血まみれで倒れていき、序盤から可哀そうで見ていられません。一方、避難を試みた飼育員が部屋中を動物だらけにして、家族から「臭い!」と苦情が出る始末。ガチョウやポニーがのそのそ動く空間は、非常時にもかかわらずのどかさが漂い、監督独特のユーモアが醸し出されています。それにしても象が靴を鼻先で盗むシーンや、名演技で魅せたチンパンジーについては、どうやって演出をしたのでしょう。大いに気になるところです。新作『オン・ザ・ミルキー・ロード』も、早く見に行かなければ…!
私が一番贔屓にしているのは、フレデリック・ワイズマン監督。人間の営む社会における光とほころびを、冷徹な視線で記録し続けてきた、アメリカのドキュメンタリー映画監督です。確かに彼の映画の主役は人間たちですが、仔馬の愛らしさを思い出しても頬がゆるむ『競馬場』、霊長類研究所のチンパンジーやリスザルたちを使った、少々残酷である実験の様子を捉えた『霊長類』と、彼の映画には生き物に関わる主題が少なくありません。マイアミのメトロ動物園に密着した『動物園』は、鳥の足の動きや、ヘビがウサギを捕食する様などの偏執的ショットがそこかしこに。生き物好きのうっとりポイントのひとつは、こうした人間には無いギミックの複雑さなので、そこのところをじっくり見せてくれるあたりに「監督、分かってる…!」と膝を打つことしきりでした。
彼らは劇中に人間のように生き物を登場させるのではなく、生き物そのものとして彼らを登場させています。多くの生き物映画のように、むせび泣きをさそうような感動は、あまり感じられないのかもしれません。それでも彼らの人間と生き物の絶妙な距離感は、生き物を“名優”たらしめていると思うのでした。
(ミ・ナミ)