2017.10.12
【スタッフコラム】ごくごく私的偏愛女優たち by甘利類
その18 ジル・シュエレンと『ポップコーン』
私の中で彼女は殿堂入りしているのです。どれほどの美少女か。デビュー作『D.C.キャブ』(83)の初登場シーンが象徴的です。荒んだタクシー会社に就職してしまったナイーヴな主人公の青年が食堂で働くジルを一目見た瞬間、ニッコリと微笑む彼女の顔には後光が差し込み、何処からか吹き抜けてきた風に長い黒髪が可憐になびくのです! 当然彼は一目惚れ。ウェイトレス姿のジルはこのベタな演出も納得のキュートさ。クラスの可愛い子感のある親しみやすさは周囲をメロメロにしてしまうようで、プライベートでは一時期キアヌ・リーヴスと付き合っていたばかりか、何とブラッド・ピットと婚約していたこともあります(しかも婚約三か月で彼女からフッたらしい!)。
かように私生活ではツワモノのジル。なのに肝心の出演作といったら、邪悪な魂を宿した兄に襲われる『チルド /蘇る冷凍人間』(85)や次々にシングルマザーと結婚し、理想の家庭ができないと皆殺しにして回るサイコ野郎に殺されかける『W/ダブル』(87)、毒蛇に噛まれた恋人が蛇の化け物になってしまう『ブラッド・バイター』(89)など味のあるB級ホラーばかり。どれも好演しているので本当にこの手の映画が好きだったのでしょう。魅惑のハスキーボイスで叫びながら血まみれで逃げ回ったり、時にしょうもないお色気場面を健気に演じる姿からは、気取らない人柄が滲み出ていて本当に素敵。
そんな誇り高きホラー女優ジルの集大成的作品が『ポップコーン』(91)です。彼女が演じるのはホラー大好きな大学の映研メンバー。ショッキングな場面で客席に電気を流したり、劇中のモンスターの着ぐるみを実際に場内で飛ばすなどの稚気に富んだ仕掛けで観客を楽しませた、実在するホラー監督W・キャッスルにオマージュを捧げるオールナイト上映会の実現に奔走します。努力の甲斐もあって会場は満員御礼。仕掛けは大ウケなのですが、裏では謎の男が暗躍。ジルの仲間たちを次々と惨殺していき、犯人を追っていた彼女もまた捕らえられてしまいます。全ての上映終了後、犯人は壇上に上がり、縛られて身動きとれない彼女を巨大刃で真っ二つにすると宣言。これもショーのひとつだと誤解した観客たちは止めるどころか拍手喝采。ジル危うし!
ホラー好きの美少女役はまるで彼女自身のよう。当然いつも以上にいきいきした魅力が爆発しています。映画自体も愉快な趣向とスリル溢れる展開が絶妙な快作です。
(甘利類)