2021.09.29

【スタッフコラム】へんてこコレクション byすみちゃん

いつ海外に行くことができるのだろう…と異国の地を恋しく思っている今日この頃。私は2017年にタイの東北部ノンカーイに行き、『サラ・ケオ・クー』というへんてこモニュメントが沢山ある場所を訪れた時のことを思い出していました。この場所には、仏教とヒンドゥー教が融合した宗教観により作られたモニュメントが点在しています。何かの顔を丸呑みしそうな仏像、大きいけど薄っぺらい寝釈迦像、超巨大な7つの顔を持つ蛇(ナーガ)の下でゆっくりしている釈迦像などなど不思議な設定や様子が描かれています。象の周りにたくさんの犬が吠えているモニュメントには、なぜか車やスクーターに乗っている犬もいて、とてもユニークです。モニュメントの下には説明書きがあるのですが、タイ語(しかもイサーン語)で私には読めず。後々調べてみると、一つ一つにストーリーがあることが分かりました。ちなみに象に吠えまくる犬たちのモニュメントは、タイ語で犬の口(パーク・マー)は口の悪い人を意味するので、その戒めのようです。

『サラ・ケオ・クー』は、ルアンプー・ブンルア・スリーラットという宗教家が夢で見た世界を忠実に再現した庭園だそうです。スリーラットさんは1932年にノンカーイで生まれ、30歳になる頃にメコン川の対岸ラオスに移住し、自らの世界観を具現化した庭園「ブッダ・パーク」を建設。建設後、再びタイに戻ってきて作り上げたのが、この『サラ・ケオ・クー』でした。ブンルア氏は小さい頃から学校の勉強をそっちのけで高僧に弟子入りしては、家族に連れ戻されるという根っからの宗教家だったようです。ちなみに彼の写真が本堂でみることができるのですが、写真の上に何故か手書きで目と眉毛がくっきりと描かれていて、一体なぜそのような手作り補正がされているのかは分かりませんが、そちらもへんてこ好きの私としては見どころではないかと思います。

じつは、ブンルア氏は共産主義者として弾圧され、タイからラオスに移住したとされています。また、ラオスが社会主義国家になった1975年に、再びタイへ戻って来るなど、政治的な抑圧を受けていたようです。アピチャッポン・ウィーラセタクン監督はタイのイサーン出身の監督ですが、『花火(アーカイブス)』というインスタレーション作品で、この『サラ・ケオ・クー』の「人生の輪(The wheel of life)」という、前世からの行いが現世にもたらす影響について説いているゾーンにあるモニュメントを撮影しています。アピチャッポン監督はこの作品について、「私が生まれ育ったタイ東北地方の寺院にある石像彫刻の記録であり、花火による一瞬の照射を受けて幻覚を引き起こす記憶の装置です。バンコクから離れ政治的にも抑圧された東北という不毛な土地が、日常のリアリティーから飛躍した夢へと人々を駆り立てる。抑圧はかずかずの抵抗を生みましたが、ここに現れる気まぐれな彫刻たちもそうした抵抗のひとつなのです。暗闇に照り出される野獣の彫刻たちが役者の姿と混ざり合い、この土地の荒廃と開放とを謳っています」(※1)と語っています。

『花火(アーカイブス)』は、ブンルア氏の見た夢を、アピチャッポン監督が光で照らすことで、まるでモニュメントたちが長い夢から目覚め、人々を抑圧してきた記憶を呼び覚ますようでした。わたしはアピチャッポン監督の作品を見た時からずっと、この場所に行きたいと思っていました。まだまだお伝えしたいタイや東南アジアのへんてこシリーズ。実際に行くことが出来ない今だからこそ、お届けしたいと思います!

(※1アピチャッポン・ウィーラセタクン個展『FIREWORKS(ARCHIVES)』、記憶と光を探求)
(すみちゃん)