2024.04.04
【スタッフコラム】シネマと生き物たち byミ・ナミ
職業柄、なるべく多くの映画を観ている私ではありますが、早稲田松竹のスタッフからおすすめ作品を教えてもらうことがあります。以前、早稲田松竹で上映していた際、SF作品にはそこまで食指が動かない私は見逃してしまっていたのですが、後で当館スタッフから「生き物偏愛家のミ・ナミさんがどう観るのか知りたいです」と言われたのがきっかけとなって観た一本の映画があります。今回の作品は、ジョーダン・ピール監督『NOPE/ノープ』です。
物語の主人公は、馬を調教して映画やテレビ撮影のために貸し出して生計を立てているヘイウッド・ハリウッド牧場のOJ。ある日、馬の調教中に空から謎の物体が飛来し、頭に被弾した父ヘイウッドが死亡するという悲劇が起きます。OJは妹エメラルドとともに牧場経営を引き継ぐのですが、あまり経営はうまく行かない様子。そんな中、なおも続く異常現象を撮影してネットでバズらせようと目論むのですが…。
あらすじだけ書いてみると、UFOやUAP(unidentifiedanomalous phenomena、未確認異常現象)を取り扱ったホラーとかSFといったジャンルなのですが、物語の根底にあるのは、人間とは異なる存在である自然への畏れの喚起です。
映画冒頭、人間社会に適応していたはずの一頭のチンパンジーがテレビ番組の収録中に出演者をなぶり殺しにしたという惨劇「ゴーディ家に帰る」事件(もちろん架空)が語られますが、この恐怖『NOPE』という作品に影を落としています。OJはアニマルタレントとしての馬の調教師ですが、腕前は父親ほどではなく、すぐに仕事を切られてしまいます。ですが、おそらく彼には生き物に対する畏れを持ち合わせているがゆえに、生き物を“調教”できないのではと思うのです。とかく人間は動物たち、特にテレビに出演する彼らや彼女らを従順な存在のように取り扱いがちです。思えばマイケル・ジャクソンのパートナーとして有名なチンパンジーのバブルス君も、“マスコットキャラ”のように扱われていましたが、成長して反抗期を迎えたことで一緒に暮らすのが難しくなり、結局手放されたそうです。
OJによって、未確認飛行物体は“Gジャン”と名付けられます。これだけ生き物へ畏怖を抱く本作ですから、“Gジャン”もまた何か生き物を模しているに違いない…と夢想した私は、彼/彼女を実在の生き物として考えてみました。本作のキャッチコピーは「絶対に、空を見上げてはいけない」でしたが、“Gジャン”に狙われたOJが必死に目を伏せることで難を逃れるシーンから考えると、どうやら野生動物と対峙するときの鉄則である「決して目を合わせてはいけない」を指しているようです。想像するに、見上げるとすぐに合う位置に目がついているのかもしれません。また、下についた口から吸いこむようにして獲物を食らう捕食行動。そして肉食性。おそらくエイのような生き物なのではないでしょうか? こんなことを考えながらネット検索をしてみると、バットマン・スティングレイという種類のエイを発見しました。映画終盤で、体を大きく広げる“Gジャン”に似ているように思います。
私たちが日々見ているテレビや映画には、多くの生き物たちが人間顔負けのタレント性を発揮して登場します。よく考えれば、『NOPE』にも本物の馬が登場しているわけで…。『NOPE』は家畜やペットと呼ばれて従順に生きる生き物たちの復讐譚なのかもしれません。
(ミ・ナミ)
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