2023.10.12
【スタッフコラム】しかまる。の暮らしメモ byしかまる。
第29回「一生モノの相棒」
服の整理をする時は、まだ着る服とそうでない服をテキパキと分けられるのに、靴のこととなると「まだ履けるのに手放すのは勿体ない…。」と悩んでしまいます。なかでも一番の悩みどころは、社会人になりやっと手に入れたドクターマーチン(DR. MARTENS)です。定番のチェルシー(サイドゴアブーツ)をローファーにしたなかなか珍しいデザインに一目惚れ。試着せずにネットで購入したためサイズが合わず、足に馴染ませるのにかなり苦労しました…。きっと足にとっては良くないとわかりつつも、綺麗なフォルムでつやつやと輝く姿に抗えず厚めの靴下を履くなど工夫しながらなんとか使い倒してはや数年の付き合いです。
そんな、ちょっと面倒くさくて憎めないマーチンの存在をもっと愛おしくさせたのは、タナダユキ監督作『マイ・ブロークン・マリコ』です。平庫ワカさんの漫画を映画化した本作は、たった一人のダチであるマリコを亡くしたシイノトモヨが、マリコを壊した元凶の父親から遺骨を奪い海へと旅に出るハードボイルドなロードムービー。煙草をふかし、ガサツでやさぐれたシイノを永野芽郁さんがまさに体当たりで演じています。シイノがマリコの遺骨を海に撒くため、生前彼女が行きたがっていた「まりがおか岬」へと向かう際、押し入れから引っ張り出したのはバイト代で買って履きつぶしたドクターマーチン。手入れもなく放置されていたマーチンはカビ臭く、シイノが消臭スプレーでなんとか匂いをごまかそうとする場面はとてもコミカルで、スクリーンを通り越して匂ってきそうなほど強烈な印象を与えています。劇場へ観に行ったとき偶然にも例のマーチンを履いていたので、自分も匂っていないか気になって上映中そわそわしてしまいました。
シイノのボロボロのマーチンは、道中ひったくりに遭い走って追いかけたり、一文無しで野宿したり、しまいには崖から転げ落ちても捻挫程度で済んでしまう彼女の頑丈さとリンクしていて、この映画の重要なアイテムといっても過言ではありません。ずっと他者の弱さをぶつけられてきたマリコを本気で心配し、怒り、すべてを受け止めていたシイノ。強くたくましく生きているように見えた彼女ですが、散々な旅路に疲れ果て「あの子のこと、何度もめんどくせーって思ってたのに…」と、つい本音を漏らします。それでもシイノはなぜマリコを最後まで見捨てなかったのか、その答えは物語の中で明かされませんが、どんなにボロボロになっても切っても切れない二人の強い絆に自分のマーチンの存在を重ね合わせ、ますます手放せなくなったのでした。
(しかまる。)