2026.08.13

スタッフコラム「わが職場の日常」byKANI-ZO

「もう一度あの映画を」

今週の早稲田松竹は、アジア映画研究の第一人者として香港、台湾、韓国、タイ、日本などの映画を世界に発信したトニー・レインズ氏の功績を讃えたプログラムです。『エドワード・ヤンの恋愛時代』『欲望の翼』『ペパーミント・キャンディー』『一瞬の夢』『ブンミおじさんの森』の5作品を上映中です。

どの作品も大好きですが、その中で特に印象に残っているのが『ブンミおじさんの森』です。私が、早稲田松竹で映写を始めて間もない2011年に、映写の担当でセッティングを行いました。当時の映写ノート(フィルムの状態や試写のデータ)を見返すと、ひとり立ちして初めて担当した作品でした。それまでは、先輩についてもらいながら作業を行っていたのですが、その日からは営業の終わった劇場で、孤独に作業を行います。編集したフィルムのリールを映写機にかけてスタートさせ、フィルムが順調に走っていることを確認。映写機から離れることに後ろ髪をひかれつつ映写室から劇場へ移動しました。

誰もいない劇場に入ると、森の中で水牛が脱走する冒頭のシーンでした。そして劇場には今までに体験したことのなかった、森の環境音―虫や鳥、風、生き物が動く音、そしてそれらを支える大地の唸りのような低音が全身を包み込むように響きます。私は引きずり込まれるようにして、劇場でブンミおじさんと共に森の中の物語を歩きました。すべて自分で準備したフィルムが目の前に広がっていることに、心が沸き立ちました。

今年の夏、またどこかで映写する機会がないかとずっと心の隅で思っていたことが実現しました。35mmフィルムが劇場に届くと号数は違うものの、昔と変わらない赤いフィルム缶で当時のワクワク感がよみがえります。15年の間に沢山の場所で上映されてきた証である傷などがあるフィルムの状態も、なんだか感慨深く見てしまいました。そして今回も偶然、映写の担当になりました。映画の精霊がこの機会を運んできてくれたのかなと思いつつ、ひとり劇場で映写チェックを行いました。

『ブンミおじさんの森』を見ていると、自分の記憶と様々な感情が交わります。今も変わらず劇場で一緒に働くスタッフがいること。旧友と再会し語り合う機会が続いていること。兄弟や家族を気に掛けることが多くなること。過ぎてきた時間の中で、人との結びつきがより強く大切なものへと、ゆっくりと変化している事をぼんやりと考えていることに気が付きました。

まもなくお盆を迎えます。『ブンミおじさんの森』は8月14日まで連日レイトショーで上映中です。少し立ち止まって振り返るには良い時期なのかもしれません。

(KANI-ZO)