2026.04.30
スタッフコラム「シネマと生き物たち」byミ・ナミ

来月の早稲田松竹のラインアップ、私が特に大注目しているのはラウラ・シタレラ監督『ドッグ・レディ』です。犬に囲まれた主人公女性のアンニュイな表情にも、元気よく吠える犬たちにも期待をそそられてしまい、予告編を映写チェックで目にするたびに踊りだしたくなるほど幸福な気持ちになります。シタレラ監督の作品だと、不思議な余韻に包まれた『トレンケ・ラウケン』しか見たことがなかったので、こんなにも生き物偏愛家に強く響く作品があるとは知りませんでした。
さて、女性監督による犬映画といえば、この監督を思い出す方も多いはずです。『ドッグ・レディ』の予習(?)として今回ご紹介する作品は、ケリー・ライカート監督『ウェンディ&ルーシー』です。
飼い犬ルーシーとともに車で職探しの旅をしているウェンディは、車が故障したうえに所持金も乏しくなり、さらにペットフードも底をついてしまいます。やむなくスーパーでペットフードを万引きしたウェンディは店員に通報され、店の外につないだルーシーを置き去りのまま警察署へ。長い取り調べの末に戻ったときには、ルーシーは姿を消してしまっていたのでした…。
物語はいなくなった愛犬を探すウェンディの道行きを追うとともに、1人の女性が置かれている過酷な状況をつぶさに描き出しています。ウェンディの境遇にはかなり身につまされるところがあるのですが、そのうえで偏愛家としては、ライカート監督の実際の愛犬が実名で登場しているからなのか「うちの可愛い子を見て!」というパッションもビシビシ感じ取ってしまうのです。芝生の上を駆けてくるルーシーと、遅れて登場するウェンディが棒で遊ぶ冒頭の横移動シークエンスだけでもうときめきが止まりません…!
『オールド・ジョイ』に続いてライカート作品に登場したルーシーは、本作でカンヌ国際映画祭パルム・ドッグ賞を受賞しました。「中型犬の雑種」であること以外詳しいことが分からないルーシーですが、可愛らしさのひとつである垂れ耳について調べてみました。実は垂れ耳の犬種は立ち耳よりも多く、諸説ありますが立ち耳はシベリアン・ハスキーや柴犬といった原始的な姿を保っている犬種に特徴的なのだそうです。そして垂れ耳が誕生したのは、原始的な犬を運搬や護衛のための動物ではなく伴侶動物として友好的に馴らしていった結果、巨大化し耳も大きく垂れていったということです。イヌ科のキツネも家畜化すると垂れ耳の種が生まれる…という説もあるそうなので、極端に言ってしまうと犬の耳と人間の親密さには相関関係があるのかもしれません。
お金も車もないウェンディは、ルーシーの幸せを願いある家族に預けることを決意します。一度飼うと決めた“命”を手放すウェンディに対し、観客の方によっては色々思うところがあるかもしれません。ただ最後の棒投げ遊びでルーシーに「ここはいい家ね。家の人もいい人そう」と語りかけるウェンディはあまりにも悲痛です。全く異なる種族であるのに、人間と生き物の間には、人と人との間ではなし得ない、一点の曇りもない信頼があると私は常に思うのですが、序盤とラストの棒投げのシークエンスには、ウェンディとルーシーの目に見えない絆がきちんとスクリーンに映っています。もちろん世界中の映画ファンから愛されているライカート監督なのですが、それがゆえに生き物偏愛家の信頼も厚いのではないでしょうか。
(ミ・ナミ)











