【2026/5/9(土)~5/15(金)上映】『トレンケ・ラウケン』//『オステンデ』+『詩人たちはフアナ・ビニョッシに会いに行く』// 特別モーニング&レイトショー『ドッグ・レディ』

すみちゃん

アルゼンチンの片田舎にある街、トレンケ・ラウケン。特に変わった街ではないけれど、坊やともワニとも言われている謎の生命体が湖に現れ、しかも、この街に植物調査をしに来た植物学者のラウラは失踪してしまった…。

『トレンケ・ラウケン』という映画にはいくつもの謎がちりばめられている。そしてその謎を突き詰めていくと、どんどん物語が立ち上がり、小さい頃に友達と空想の物語を膨らませた時のような、ときめきが生まれては広がっていく。目の前にある不思議な現象に対して、疑問に思って言葉にすること、行動すること。大人になったら後回しにしてしまいがちなことに、主人公のラウラは果敢に挑んでゆく。そんなラウラに魅了されたのはわたしだけではなく、失踪した彼女を探すラウラの恋人と同僚もそうだった。捜索中、彼らはラウラのことを分かったつもりでいたのに、結局彼女の一面しか知らなかったのだと思い知っていく。信じていたものに疑いの目を向けるときの、彼らの表情に現れる心もとなさを見たとき、わたしも身近な人に同じような不安を抱いたことを思い出した。

『ドッグ・レディ』を観たときもそうだ。ブエノスアイレスの郊外でたくさんの犬とホームレスのように生きる女性が大切にしているものを、簡単に説明することはできない。また『オステンデ』では、主人公は海辺のリゾートで同じホテルに宿泊している1人の男と2人の女の様子を観察し、勝手に事情を想像してはみるものの、結局は見たり聞いたりしたことでしかその人たちを認識できず、関係性の分からなさに翻弄されてしまう。

けれど、それは不安に思う必要はないと『詩人たちはフアナ・ビニョッシに会いに行く』は教えてくれる。フアナ・ビニョッシという詩人が亡くなり、彼女についての映画を作ることになったラウラ・シタレラ監督と彼女が所属している映画コレクティブ「エル・パンペロ・シネ」のスタッフたち。彼女たちは実際にビニョッシに会ったことはなかったけれど、遺品や詩や写真から彼女を語ろうとする。よく知らない人物のことを知っているかのように描くのではなく、撮影している自分たちの姿も映画内に収め、今=ここから、できることから始めるという制作へのひたむきさが、映画を紡ぎ出している。

たとえその人の一面だけしか見えていなくても、その部分を大切にできればいい。全部を知ることだけがすべてじゃないのだ。いつからか大人になり、知らないことに不安を抱くことが多くなってしまった。けれど、知らないことは、もっともっと新たに知ることができる可能性の始まりだったのだ。

ラウラ・シタレラ監督特集の映画を観た帰り道、落ちているメモを拾ってしまったら、ついつい中身を見て、何か調べ物をしてしまいそうだ。いつもとは違う、何気ない日々の好奇心が小さなきらめきに、映画を見終わったあとは変わる。かも、しれない。

エル・パンペロ・シネとは
2002年にマリアノ・ジナスを中心に結成された映画コレクティブ。たんなる映画制作会社ではなく、アルゼンチンにおける映画の在り方を実験的に刷新することを目指す。中心メンバーはマリアノ・ジナス、アレホ・モギシャンスキー、アグスティン・メンディラルス、ラウラ・シタレラの4人。映画の美学的な革新にとどまらず、インディペンデントな映画制作、製作および上映の形態そのものに革命をもたらした。
(トレンケ・ラウケンパンフレットより引用)

トレンケ・ラウケン
Trenque Lauquen

ラウラ・シタレラ監督作品/2022年/アルゼンチン・ドイツ/260分(Part1:128分、Part2:132分)/DCP

■監督 ラウラ・シタレラ
■脚本 ラウラ・シタレラ/ラウラ・パレーデス
■製作 エル・パンペロ・シネ
■撮影 アグスティン・メンディラルス/イネス・ドゥアカステラ/ヤララ・ロドリゲス
■編集 ミゲル・デ・スビリア/アレホ・モギシャンスキー
■音楽 ガブリエル・チュフニク

■出演 <Part1>ラウラ・パレーデス/エセキエル・ピエリ/ラファエル・スプレゲルブル/セシリア・ライネロ
<Part2>ラウラ・パレーデス/エセキエル・ピエリ/フリアナ・ムラス/エリサ・カリカホ/ベロニカ・ジナス

■2023年カイエ・デュ・シネマ誌 ベストテン第1位/2023年国際シネフィル協会賞 作品賞・監督賞・脚本賞・アンサンブル賞受賞/第79回ヴェネツィア国際映画祭 オリゾンティ部門選出 ほか多数受賞、ノミネート 

【2026/5/9(土)~5/15(金)上映】

平原に消えた1人の女性、彼女を探す2人の男たち

アルゼンチンの片田舎トレンケ・ラウケンで、ひとりの植物学者の女性ラウラが姿を消す。取り残された二人の男たち―恋人のラファエル、同僚のエセキエル―は、彼女を追って町や平原をさまよう。彼女はなぜいなくなったのか。この土地には何が眠っているのか。映画が進むにつれ物語は予想のつかない多方向へひろがり、謎はさらなる謎を呼び、秘密は秘密として輝きはじめる――。

2023年カイエ・デュ・シネマ誌ベストテン第1位 世界中の批評家や映画ファンを魅了した南米の迷宮的ミステリー

協働的かつインディペンデントな映画制作を20年以上続けてきたアルゼンチンの映画コレクティブ「エル・パンペロ・シネ」。今、世界中の映画祭から注目されるこの集団の集大成的作品がラウラ・シタレラ監督『トレンケ・ラウケン』だ。今作は4時間超のボルヘス&ボラーニョ的迷宮ミステリーでありつつ、誰もが楽しめる娯楽作であり、探偵もの、メロドラマ、クィア、フェミニズム、SFなど様々なジャンルや要素を越境しながら吸収して、誰も見たことのない境地へと観客を連れていく。

オステンデ
Ostende

ラウラ・シタレラ監督作品/2011年/アルゼンチン/85分/DCP

■監督 ラウラ・シタレラ
■製作 マリアノ・ジナス
■撮影 アグスティン・メンディラルス
■録音 ロドリゴ・サンチェス・マリニョ
■編集 アレホ・モギシャンスキー
■音楽 ガブリエル・チュフニク

■出演 ラウラ・パレーデス/フリアン・テジョ/サンティアゴ・ゴベルノリ/デボラ・デフティアル/フェルナンダ・アラルコン/フリオ・シタレラ

■2011年ブエノスアイレス国際インディペンデント映画祭アルゼンチンコンペティション部門 アルゼンチン作家協会スペシャルメンション受賞

【2026/5/9(土)~5/15(金)上映】

ラウラは海辺のリゾートで謎の男の秘密に迫ろうとする——

ラジオのクイズコンテストの懸賞で、ブエノスアイレス近郊オステンデのホテルを訪れたラウラ。だがリゾートはシーズンオフ。後から合流する彼氏を待つ間、彼女は2人の若い女を連れた中年男を観察しはじめる。男の奇妙な態度に好奇心をくすぐられ、密かにくり広げられているかもしれない中年男をめぐる物語を解き明かそうと想像をふくらませてゆくが…。

ヒッチコックやロメールへ目配せをしつつ、日常に潜むフィクションにのめり込む女性を描いた監督デビュー作。シタレラは『トレンケ・ラウケン』に連なるサーガの一篇であり、異なる世界にいる同じ登場人物の物語だと語っている。

詩人たちはフアナ・ビニョッシに会いに行く
The Poets Visit Juana Bignozzi

ラウラ・シタレラ監督作品/2019年/アルゼンチン/90分/DCP

■監督 ラウラ・シタレラ/メルセデス・ハルフォン
■製作 エル・パンペロ・シネ/メルセデス・ハルフォン
■撮影 イネス・ドゥアカステラ/アグスティン・メンディラルス
■編集 ミゲル・デ・スビリア/アレホ・モギシャンスキー
■音響 マルコス・カノーサ

■出演 マルティン・ロドリゲス/ マルセリーナ・ハルマ/マルティン・ガンバロータ/グラシエラ・ゴルドチュルク/アナ・ポルア

■2019年マル・デル・プラタ国際映画祭アルゼンチン映画コンペティション最優秀監督賞受賞/2020年ライプツィヒ国際ドキュメンタリー・アニメーション映画祭銀の鳩賞受賞

【2026/5/9(土)~5/15(金)上映】

もしも、詩と映画を対峙させたら何が語られるのか?

フアナ・ビニョッシという詩人が死んだ。彼女の詩を世に遺したいと願う若い詩人メルセデス・ハルフォンは、ラウラ・シタレラたちとビニョッシについての映画を作ることにする。遺品を整理しながらビニョッシの詩に向き合う女性たち。プロットもなくはじまったこのプロジェクトは、彼女たちが予想だにしなかった複雑で繊細なものへと進化していく。

『トレンケ・ラウケン』と同時期に制作された今作では、アレクサンドラ・コロンタイや書物への書き込みといった共通のエピソードが語られ、シタレラ作品の最重要テーマである「共同体への希求」が、軽やかに切実に記録されている。

【モーニング&レイトショー】ドッグ・レディ
【Moning&Late Show】Dog Lady

ラウラ・シタレラ監督作品/2015年/アルゼンチン/98分/DCP

■監督 ラウラ・シタレラ、ベロニカ・ジナス
■製作 エル・パンペロ・シネ
■撮影 ソレダ・ロドリゲス
■編集 イグナシオ・マスジョレンス
■音響 マルコス・カノーサ
■音楽 フアナ・モリーナ

■出演 ベロニカ・ジナス/フリアナ・ムラス/ヘルマン・デ・シルバ/フアナ・サラ

■2015年ロッテルダム国際映画祭コンペティション部門正式出品/2015年ブエノスアイレスインディペンデント国際映画祭国際コンペティション部門主演女優賞受賞/2015年アテネ映画祭主演女優賞受賞

【2026/5/9(土)~5/15(金)上映】

大都市郊外の平原で、犬たちに囲まれて暮らすひとりの女

ひとりの女性がたくさんの犬に囲まれて、平原を横切っていく。彼女はブエノスアイレス郊外の空き地に自らの手で建てた小屋で、10匹の犬とともにひっそりと暮らしている。金も使わず、言葉も喋らず、社会からはみ出たような謎の女。だが無秩序に肥大化した大都市の周縁には、彼女のような謎が謎のままで存在できる世界が広がっている。狩りに出て、食事をし、水辺を眺め、やがて死ぬ。そんな原初的な自由が許された世界の、彼女は名もなき観察者なのかもしれない。

主人公を演じるのはエル・パンペロのマリアノ・ジナスの姉ベロニカ・ジナス。ベロニカの発案をシタレラと共同監督した作品。