今週早稲田松竹で上映するのは『夜に生きる』と『ラビング 愛という名前のふたり』。 気鋭の映画監督ベン・アフレックとジェフ・ニコルズが描いたアメリカの近代だ。
「1917年フランスでドイツ軍と戦った。善人が大勢死んだ。不条理に思えた。 世の中のルールはデタラメだ。作った連中は守りゃしない。二度と命令には従うまいと思った」
『夜に生きる』は第一次世界大戦の終わりから、禁酒法時代を経て第二次世界大戦前までのアメリカを舞台にした物語。 アイルランド系の一家に生れ、戦争から帰ってきてからは、ならず者として生きることを選んだジョー。 ボストンを二分するギャングの目を掻い潜り、ギャングのボスの情婦との愛に溺れ、 仲間と強盗をして生きる彼の姿は、確かに孤高で独立した「自由」な者の姿である。 しかし、他人のルールに従うことのない彼でさえ、次第にギャングの抗争に巻き込まれていってしまう。
舞台であるボストン出身のベン・アフレック監督。監督自ら往年のギャング映画へのラブレターだと語る本作では、 ギャングの世界だけでなく、人種問題や移民の現実、宗教の問題まで接続しながら、殺しては報復され、 それを永遠と繰り返していく彼らの人生と社会の原理を描いている。
『ラビング 愛という名前のふたり』では、ミルドレッドが身籠ったと知ったリチャード・ラビングは彼女に求婚しワシントンD.Cで入籍する。 レンガ職人である彼はヴァージニア州のこの地に土地を買って、家を建てると言う。 しかし、1958年7月11日の夜に彼らの家に警察が踏み込んだときから、彼らは州外退去処分となり10年にもわたる長い闘いが始まるのだ。 黒人のミルドレッドと、白人のリチャードとの結婚はこの当時アメリカの南部のほとんどの州で認められていなかった。
愛した人と一緒にいることさえままならない。「自由の国アメリカ」とはほど遠い現実。 ジェフ・ニコルズもまた、自身の出身であるマサチューセッツ州を舞台にした映画を作ってきた。 アメリカ南部の現実やその素朴で朴訥な人柄をよく知る彼が今回描くのは、権利を認められずに声高に叫ぶ者たちの姿ではない。 ただ当たり前のことを求める寡黙なアメリカ人の姿だ。
始めはただ一緒にいたい一心だった彼らが、ある時から冷静でたくましい意志を持ち始める姿。 それは、お互いを見つめ合い、常に相手を思いやることから育て上げた「自分たちが一緒にいてはいけないなんて間違っている」という確信だ。 その事実の強さは、実際に合衆国最高裁で勝利を勝ち取り、アメリカの憲法まで変える力になった。
二人の監督の映画は、観ている者を飽きさせないだけじゃない、 とても繊細なタッチで私たちに真実を伝えてくる力がある。 映画をみる意味なんて、観客によって様々だと思う。 しかし、映画にはそこに現代性を宿して、わたしたちに訴えかけてくる力があるのは確かだ。 そのことを思い出させてくれる。
ラビング 愛という名前のふたり
Loving
(2016年 アメリカ 123分 シネスコ)
2017年10月14日から10月20日まで上映
■監督・脚本 ジェフ・ニコルズ
■製作 ゲド・ドハティ/コリン・ファース/サラ・グリーン/ナンシー・ビュアスキー/マーク・タートルトーブ/ピーター・サラフ
■撮影 アダム・ストーン
■編集 ジュリー・モンロー
■音楽 デヴィッド・ウィンゴ
■出演 ジョエル・エドガートン/ルース・ネッガ/マートン・ソーカス/ニック・クロール/マイケル・シャノン/テリー・アブニー/アラーノ・ミラー/ジョン・バース
■第89回アカデミー賞主演女優賞ノミネート/第69回カンヌ国際映画祭パルムドールノミネート/第74回ゴールデン・グローブ賞主演男優賞・主演女優賞ノミネート
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レンガ職人のリチャード・ラビングは、恋人のミルドレッドから妊娠したと告げられ、大喜びで結婚を申し込む。時は1958年、ここバージニア州では、異人種間の結婚は法律で禁止されていた。だが、子供の頃に出会って育んだ友情が、愛情へと変わっていったリチャードとミルドレッドにとって、別れるなどあり得ないことだった。二人は法律で許されるワシントンDCで結婚し、地元に新居を構えて暮らし始めるが、夜中に突然現れた保安官に逮捕されてしまう。二人は、離婚か生まれ故郷を捨てるか、二つに一つの選択を迫られる──。
ある夜、突然逮捕されたラビング夫妻。その罪の名は、“結婚”──今からわずか60年前のこと、アメリカのいくつもの州で異人種間の結婚が禁じられていた。だが、活動家でもなく、ごく普通の労働者階級のラビング夫妻の訴えによって、1967年に遂に法律が変わる。本作は、この驚くべき実話に深い感銘を受けた名優コリン・ファースがプロデューサーを名乗り出て、映画化が実現した。
気鋭のジェフ・ニコルズ監督が丁寧に慈しむようにスクリーンに焼きつけたのは、実在の夫妻の慎ましくも美しい人生。主演のジョエル・エドガートン、ルース・ネッガは、本作でゴールデン・グローブ賞Wノミネートするなど、数々の映画賞にノミネートされた。彼らの一点の曇りもない演技が、観る者すべての心を揺さぶる。
二人は自分たちの“LOVING(ラビング)”という名前の通り、ただひたすらに愛を貫いた。歴史までをも変えた、史上最も純粋な愛を描いた感動作が誕生した。
夜に生きる
LIVE BY NIGHT
(2016年 アメリカ 129分 シネスコ)
2017年10月14日から10月20日まで上映
■監督・製作・脚本・出演 ベン・アフレック
■製作 レオナルド・ディカプリオ/ジェニファー・デイヴィソン/ジェニファー・トッド
■原作 デニス・ルヘイン『夜に生きる』上・下(ハヤカワ・ミステリ文庫)
■撮影 ロバート・リチャードソン
■編集 ウィリアム・ゴールデンバーグ
■音楽 ハリー・グレッグソン=ウィリアムズ
■出演 エル・ファニング/ブレンダン・グリーソン/クリス・メッシーナ/シエナ・ミラー/ゾーイ・サルダナ/クリス・クーパー
■2016年放送映画批評家協会賞美術賞ノミネート
©2016 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. ALL RIGHTS RESERVED.
舞台は1920〜30年代の禁酒法時代のアメリカ。ジョーは、ボストン警察の幹部を父親に持ちながら、仲間と強盗を繰り返していた。町では2代勢力のギャングが対立していたが、誰にも支配されたくないジョーは組織に入る気などなかった。ところが、一方のボスの愛人エマと恋に落ちたことから、ジョーの人生は激変する。夢と野望を叶えるため、彼にはギャングとしてのし上がる道しか残されていなかった――。
本当にあった奇想天外な事件を映画化した『アルゴ』で、アカデミー賞作品賞をはじめ数々の賞に輝いたベン・アフレック監督の最新作。本作でも自ら主演を務め、どんなに高い代償を払っても信念を守ろうとする“高潔なダークヒーロー”を演じきった。その他、『アメリカン・スナイパー』のシエナ・ミラー、『ネオン・デーモン』のエル・ファニング、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』のゾーイ・サルダナなど、華やかな女優が顔を揃えている。
原作は、現代ミステリー界で最高峰の作家と称される、「ミスティック・リバー」のデニス・ルヘインの全米ベストセラー小説。製作はオスカー俳優のレオナルド・ディカプリオが務めている。3人の女性との出逢いがもたらした愛と欲望、裏切りと復讐──そのすべてを手に入れ、すべてを叶えるために、“夜に生きる”と決意した男の極上のクライム・エンターテインメント!