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――こんなはずじゃなかった
いくらだって選択肢はあったはずなのに、どれもこれもうまい具合にすり抜けて、最悪な道に辿りついてしまう。きっと、そんなこと沢山あるし、誰にでも訪れ得ることです。迷いもなく器用に生きていけたらいいのだけど、「人生楽ありゃ苦もあるさ」なのです。

シェリル(『わたしに会うまでの1600キロ』)の場合。
最愛の母の死から、薬と男に溺れ、遂には離婚と、最悪の日々でした。いちからやり直そうと、パシフィック・クレスト・トレイル(PCT)を歩くと決めたものの、その道のりもまた厳しいもので、開始早々に「バカなことした」と後悔する始末。アウトドア好きでもないのに1600キロ歩くなんて、なかなか思いつくようなことではありません。「負のスパイラルから脱出したい!」と思ったら、後先考えずに行動してしまうもの。そうやって、突拍子もないことを思いついたり、心配だからと、余計なものを沢山背負い込んで準備もままならなかったり…。だけど、次第にシェリルは旅の中で出会った人達との会話や、過酷な状況から、過去を振り返ります。そして、一人歩きながら自分を見つめ直し、目を背けていた現実、哀しみや苦しみを受け入れていくのです。

ヴィンセント(『ヴィンセントが教えてくれたこと』)の場合。
ロクに仕事もせず、酒とギャンブルに溺れ、貯金も底をつき、借金に悩まされる毎日。ひょんなことから、隣に引っ越してきた小学生オリバーの面倒を見ることになります。そのオリバーはといえば、学校でいじめられて、両親は離婚調停中、更には、ぶっきらぼうな偏屈オヤジと一緒に過ごすなんて、憂鬱の日々です。孤立していて、人付き合いなんて面倒…。そんな二人でしたが、ヴィンセントの行きつけのバーや競馬場に一緒に行くうちに、二人の間には奇妙な友情が芽生えてゆくのです。そして、オリバーは強くなってゆき、ヴィンセントの優しさも見えるようになってゆきます。自分一人で生きていると思ったら、いつしか頭は固くなり、他者との距離を置きがちです。だけど、人と関わることで、ものの見方は変わり、少しずつ世界が広がります。相手を知ることで、自分のことも知ってゆくのだと気づかされるのです。

どう生きるかなんて、人それぞれ。人生に「正しい」も「間違い」もないのです。大切なのは、「これが私の人生だ」と自信を持って歩くこと。回り道の人生も悪くない! 今週の早稲田松竹は、見たらきっと元気になれる二本立てをお届けいたします。

(もっさ)

わたしに会うまでの1600キロ
WILD
(2014年 アメリカ 116分 DCP R15+ シネスコ) pic 2016年2月27日から3月4日まで上映 ■監督 ジャン=マルク・ヴァレ
■製作 リース・ウィザースプーン/ブルーナ・パパンドレア/ビル・ポーラッド
■脚本 ニック・ホーンビィ
■原作 シェリル・ストレイド 「わたしに会うまでの1600キロ」(静山社刊)
■撮影 イヴ・ベランジェ
■編集 ジョン・マック・マクマーフィ/マーティン・ペンサ
■音楽スーパーバイザー スーザン・ジェイコブス

■出演 リース・ウィザースプーン/ローラ・ダーン/トーマス・サドスキー/ミキール・ハースマン/ギャビー・ホフマン/ケヴィン・ランキン/W・アール・ブラウン/モー・マクレー/キーン・マクレー

■2014年アカデミー賞主演女優賞・助演女優賞ノミネート/ゴールデン・グローブ賞女優賞ノミネート/英国アカデミー賞主演女優賞ノミネート/放送映画批評家協会賞主演女優賞・脚色賞ノミネート

何度もやめようと思った、
でも歩き続けた。
人生とおんなじだ。

picスタートしてすぐに、「バカなことをした」と後悔するシェリル。今日から一人でトレイルを歩くのだが、すぐに体のあちこちが悲鳴を上げ、夜は暗闇と野生動物に脅えて眠れない。この旅を思い立った時、シェリルは最悪の日々を送っていた。母の死の悲しみに耐えられず、優しい夫を裏切っては薬と男に溺れ、遂に結婚生活も破綻、このままでは残りの人生も台無しだ。母が誇りに思ってくれた自分を取り戻すために、一から出直すと決めたのだ。

だが、この道は人生よりも厳しかった。極寒の雪山、酷暑の砂漠に行く手を阻まれ、食べ物も底をつくなど、命の危険にさらされながら、自分と向き合うシェリル。果たして彼女が、1600キロの道のりで見たものとは──?

ニューヨーク・タイムズNo.1ベストセラーを映画化!
たった1人で3ヵ月間、
砂漠と山道を踏破した女性の感動の実話

pic気軽な山歩きの経験すらないのに、何のトレーニングもせず、1600キロ踏破に挑んだ女性がいる。アメリカ西海岸を南北に縦断する自然歩道パシフィック・クレスト・トレイルという過酷なコースを歩いたシェリル・ストレイドだ。彼女がその途方もない体験をまとめ、世界を驚きと称賛で包んだベストセラーの映画化が実現した。

pic監督は数々の賞に輝いた『ダラス・バイヤーズクラブ』の名匠ジャン=マルク・ヴァレ。シェリルには、本作でプロデューサーも務めた、『ウォーク・ザ・ライン/君につづく道』のリース・ウィザースプーン。彼女の母親に『インランド・エンパイア』のローラ・ダーン。亡き母と娘の心の絆を演じ、アカデミー賞Wノミネートを果たした。

なぜ、彼女は歩いたのか? 物語と共に明かされるのは、愛する人を失った悲しみからのどん底の日々。美しくも厳しい大自然のなかで、彼女が本当の自分と出会うまでを描き、観る者にどんな逆境の中でも前に進むパワーをくれる感動作が誕生した。

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ヴィンセントが教えてくれたこと
ST. VINCENT
(2014年 アメリカ 102分 DCP ビスタ)
pic 2016年2月27日から3月4日まで上映 ■監督・製作・脚本 セオドア・メルフィ
■製作 ピーター・チャーニン/ジェンノ・トッピング/フレッド・ルース
■撮影 ジョン・リンドレー
■編集 ピーター・テッシュナー/サラ・フラック
■作曲 セオドア・シャピロ
■音楽監修 ランドール・ポスター

■出演 ビル・マーレイ/メリッサ・マッカーシー/ナオミ・ワッツ/クリス・オダウド/テレンス・ハワード/ジェイデン・リーベラー

■2014年ゴールデン・グローブ賞作品賞・主演男優賞ノミネート/放送映画批評家協会賞若手俳優賞・コメディ映画賞・コメディ映画男優賞・コメディ映画女優賞ノミネート

さあ、人生のホームワークを始めよう。

picアルコールとギャンブルに溺れるちょい悪オヤジのヴィンセントは、ひょんなことからお隣に引っ越して来た、いじめられっ子オリバーの面倒を見ることになる。小学生相手に容赦なく毒舌を連発し、行きつけのバーや競馬場にも連れ歩き、ヴィンセントはオリバーに注文の仕方、オッズの計算方法、いじめっ子の鼻のへし折り方など、一見ろくでもないことを教え込んでいく。

最初は最悪だと思っていたオリバーだが、ある日ヴィンセントが介護施設に立ち寄り、認知症の妻に愛おしげに接する様子を目の当たりにする。気難しい老人と気弱な少年の間にはいつしか奇妙な友情が芽生え、2人のささやかな冒険の日々が始まった―――。

男同士の友情に、年齢は関係ない?!
ひねくれジジイといじめられっ子の少年との、
異色の友情物語。

pic 北米でたった4館から始まったにも関わらず、4週間後には2500館に拡大し、最終的には4400万ドルを売り上げるスマッシュ・ヒットを記録した本作。加えて批評家筋の絶賛も相次ぎ、ゴールデン・グローブ賞では作品賞と男優賞にWノミネートされるという快挙を果たした。監督は数々のCMを手掛けてきた新進気鋭のセオドア・メルフィ。独居老人やシングルマザーなど日常に対峙する問題をさらりとベースに敷きながら、たくましく生きる魅力的なキャラクターたちを描いている。

pic主演はビル・マーレイ。“ちょい悪”老人ヴィンセントを演じ「キャリア最高の演技」との高評価を得た。ほか、『ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン』のメリッサ・マッカーシーが悩めるシングルマザーを、『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』のナオミ・ワッツが妊婦のストリッパーを演じ、型破りな役柄で観る者に新鮮な驚きを与えている。また、オリバー役でビル・マーレイ相手に堂々と渡り合ったジュイデン・リーベラーは、数々のベスト子役賞を受賞し、ハリウッドで注目の的となった。

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