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エルマンノ・オルミ

1931年7月24日ベルガモ生まれ。父は鉄道員で、33年に家族でミラノに移り住む。大戦終了後、電力会社エディソンに就職し、水力発電所についての映画を撮ったのに続いて40作以上のドキュメンタリーを作った。

1959年に、村の夜警と都会の若い男性との友情を綴った『時は止まりぬ』で長編劇映画デビュー。続いて『就職』(61)、『婚約者たち』(63)を発表した。この3本は初期の傑作三部作として評価が高い。

1978年の『木靴の樹』はカンヌ国際映画祭グランプリ(現在のパルム・ドール)を受賞し、世界的な評価を決定づけた。その後も『聖なる酔っぱらいの伝説』(88)でヴェネチア国際映画祭金獅子賞を受賞、『ジョヴァンニ』(01)はイタリアのアカデミー賞を9部門で受賞し、大成功を収めた。

2008年、オルミ監督の長年の功績を称えヴェネチア国際映画祭は、栄誉金獅子賞を贈呈した他、ヴェニス・ディ部門が発表した「後世に遺したいイタリア映画100」で、フェリーニ、ヴィスコンティらと並んで『木靴の樹』、『就職』が選ばれた。

filmography

・時は止まりぬ<未>(59)
・就職<未>(61)
・婚約者たち<未>(63)
・人、来たれり<未>(65)
・ジョバンニの物語<未>(67)
・或る日<未>(69)
・イ・レクペランティ<未>(70)
・夏の間<未>(71)
・事件の状況<未>(74)
・木靴の樹(78)
・カミーナ、カミーナ<未>(83)
・偽りの晩餐(87)
・聖なる酔っぱらいの伝説(88)
・12 registi per 12 citta<未>(90)※オムニバスドキュメンタリー
・Lungo il fiume<未>(92)※ドキュメンタリー
・ボスコ・ヴェッキオの秘密<未>(93)
・創世記・天地創造と大洪水<未>(94)
・ジョヴァンニ(01)
・屏風の陰で歌いながら<未>(03)
明日へのチケット(05)
ポー川のひかり(06)
・Terra Madre<未>(09)※ドキュメンタリー
・Rupi del Vino<未>(09)※ドキュメンタリー
楽園からの旅人(11)
・緑はよみがる(14)

イタリアの巨匠エルマンノ・オルミ監督最新作『緑はよみがえる』は、戦争映画でありながら異例なほど静寂が支配した作品です。恐怖におびえ、敵の姿もしかと見極められないまま散っていく兵士たち。静謐でありながら、理不尽な戦争への怒りに貫かれた真摯な作品です。

本作は第一次大戦に従事した父から聞いた戦争体験が基になっているといいます。イタリアはこの戦争では戦勝国であり、歴史を俯瞰した時には彼らの悲惨な体験も見過ごされてしまいかねません。このままでは風化し、忘れ去られてしまう人々のことを、現在、そして未来の人びとに思い起こさせるために、彼はこの映画をどうしても撮る必要があったのです。

かけがえがなく、記録しなければ完璧に忘却されてしまうような、市井の人間の記憶、あるいは時代の空気を映画として残すこと。それは最新作に限らず、ドキュメンタリー映画作家として出発したオルミが、映画を撮りつづける大きな動機ではないかと思います。

例えば、『木靴の樹』。緻密な時代考証により、19世紀の農村の風習を完璧に甦らせた本作は、タイトル通り木靴の樹を巡る挿話もありながら、それ以上に当時の貧しい村の日常の営み、それ自体の圧倒的豊かな画面の連鎖が私たちを釘付けにします。時代の状況は、ここでは単に物語に奉仕する背景に留まらず、映画全体をゆったりと、しかし力強く進める大きな魅力となっているのです。もはや語り部のいない時代の空気を、ドキュメンタリー以上に濃密に語る本作は、オルミの作家精神の結実した代表作です。

素人俳優を使うことを好むオルミですが、『聖なる酔っぱらいの伝説』では例外的に『ブレードランナー』のレプリカント役で一世を風靡したルトガー・ハウアーを主演に迎えています。とはいえ、それも30年代に書かれたヨーゼフ・ロートの原作の精神を映画として生かすための選択に他なりません。ここでのハウアーは、高貴な品位と誠実な人柄を兼ねそなえた、生のままの魅力を放っています。酒で身を持ち崩しながら、反時代的なまでに高潔に生きようとする男の魂の軌跡を描く本作もまた、人間のあるべき姿を観る者に問いかけるオルミらしい名編です。

人間をあたたかく、慈愛に満ちた眼差しで描くことで定評のあるエルマンノ・オルミ。しかし、その眼差しには人間のはかなさへの静かな悲しみが混在しています。今回上映する三作品を観ることで、その奥深いヒューマニズムの神髄に触れられると思います。

(ルー)

木靴の樹
L'albero degli zoccoli
pic (1978年 イタリア 187分 DCP SD)
■監督・脚本・撮影・編集 エルマンノ・オルミ
■美術 エンリコ・トヴァリエリ
■音楽(使用楽曲) ヨハン・セバスチャン・バッハ

■出演 ルイジ・オルナーギ/フランチェスカ・モリッジ/オマール・ブリニョッリ

■1978年カンヌ国際映画祭パルム・ドール、エキュメニカル審査員賞受賞/セザール賞外国映画賞受賞/NY批評家協会外国語映画賞受賞

©1978 RAI-ITALNOLEGGIO CINEMATOGRAFICO - ISTITUTO LUCE Roma Italy

秋のとりいれ、冬のおき火のもとでの語らい、
春の日差しへの夢――
土とともに生きる人々の営みを描く
カンヌ映画祭最高賞パルム・ドール受賞作

pic 19世紀末の北イタリア、ベルガモ。厳しい大地主のもとで肩を寄せ合うように暮らす四軒の農家。貧しい彼らは農具や生活の品の多くを地主から借りていた。ある日、バティスティ一家のミネク少年の木靴が割れてしまう。父は村から遠く離れた学校に通う息子のために、川辺のポプラの樹を伐り、新しい木靴を作った。しかし、その樹木もまた地主のものだった…。

pic人々の暮らしが大地の四季のめぐりとともにあった時代。農家の貧しくつましい日々が、慈しみをこめて映し出されゆく。厳しい農作業、祭、結婚、出産、喜びと悲しみ、現代の文明社会とは対極にある人々の暮らしは、今日の私たちの心に一層の切実さをもって迫ってくる。

1978年のカンヌ国際映画祭では、満場一致で最高賞パルムドールを受賞。その後も各国の映画祭を総なめにし、日本でも大きな反響を呼んだ『木靴の樹』。名もなき人々に向ける優しく深い眼差しと、社会の不条理への静かな告発が示される代表作である。

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聖なる酔っぱらいの伝説
La leggenda del santo bevitore
pic (1988年 イタリア/フランス 127分 ブルーレイ ビスタ)
■監督・脚本 エルマンノ・オルミ
■原作 ヨーゼフ・ロート
■脚本 トゥリオ・ケツィク
■撮影 ダンテ・スピノッティ
■音楽(使用楽曲) イゴール・ストラヴィンスキー

■出演 ルトガー・ハウアー/アンソニー・クエイル/サンドリーヌ・デュマ/ドミニク・ピノン

■1988年ヴェネツィア国際映画祭金獅子賞・OCIC(国際カトリック映画事務局)賞受賞/1989年ダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞最優秀作品賞・監督賞・撮影賞・編集賞受賞

©RTI S.p.A.

グラスのなかで愛しい人々に出会う。
一杯の酒から広がる気持ちのいい大人のファンタジー

picパリの路上で暮らすアンドレアスは、不思議な紳士から200フランを渡される。そんな大金は返せないと辞退すると、紳士は「返せる時がきたら聖テレーズ像のある教会に返してくれ」と言い残し去っていく。そして、この時からアンドレアスには、次々と幸運が舞い込んでくる。買った財布の中に金が入っていたり、旧友との再会、そして若い踊り子とのアバンチュール等々…。

picヴェネツィア映画祭金獅子賞に輝いた『聖なる酔っぱらいの伝説』。処女作『時は止まりぬ』、『就職』をはじめ、一貫して監督と脚本を自ら手掛けてきたオルミが初めてヨーゼフ・ロートの原作を映画化した。ロートは「ラデツキー行進曲」で知られるオーストリア最大の作家で、本作は死の数か月前に執筆された遺作である。

また、北イタリアにとどまって映画製作を行ってきたオルミが、本作では初めてパリで撮影、さらに、プロの俳優をほとんど使わないことで有名だったが、オランダ出身の個性派アクションスター、ルトガー・ハウアーを主演に迎えた異例の作品である。今回上映するのは、イタリア本国で製作されたHDリマスター版です。

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緑はよみがえる
Torneranno i prati
pic (2014年 イタリア 76分 DCP ビスタ)
■監督・脚本 エルマンノ・オルミ
■撮影 ファビオ・オルミ
■音楽 パオロ・フレス

■出演 クラウディオ・サンタマリア/アレッサンドロ・スペルドゥーティ/フランチェスコ・フォルミケッティ

■第65回ベルリン国際映画祭特別招待作品

父から託された戦争の記憶を
雪のイタリア山中に映し出す

pic イタリア・アルプスのアジア―ゴ高原。冬は雪で覆われ、夏には緑が生い茂る。かつてここで戦争があった。1917年冬、第一次世界大戦のさなか、イタリア軍兵士たちは雪山の塹壕のに身をひそめていた。彼らの唯一の楽しみは、家族や恋人から送られてくる手紙のみ。そんな時、まだ少年の面影を残す若い中尉がやってきた――。

pic常に弱者に寄り添い、慈しみに満ちた眼差しで人間を見つめながら、同時に混迷を深める時代に対して根源的な問いを投げかけ続けてきた、イタリアの名匠、エルマンノ・オルミ。80歳を過ぎた今、本作で描いたのは幼い日に見た父の涙の意味――。「父はヒロイズムに駆られ、19歳で第一次世界大戦に従軍しました。しかし、過酷な戦場での体験はその後の父の人生を変えてしまいました。戦友を思い、父が涙するのを見たのは一度きりではありません」。オルミ監督は本作を父に捧げている。

モノクロームかと思うほどに色調を落とした塹壕の静寂と、外に広がる自然の沈黙を対比させた美しい映像。何も知らされないまま戦地に送り込まれた若者たちの痛みと悲しみ。名匠オルミは、自然の中に戦争の愚かさとともに、人間の命の尊さを静かに描き出す。

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