■イエジー・スコリモフスキ
1938年5月5日ポーランド、ウッチ生まれ。
ワルシャワ大学を卒業後、アンジェイ・ワイダ監督『夜の終りに』('60)、ロマン・ポランスキー監督『水の中のナイフ』('62)の脚本を執筆。
ウッチ映画大学在学中に製作した『身分証明書』('64)で長編映画監督としてデビュー。この作品と『不戦勝』('65)、『手を挙げろ!』('67)はスコリモフスキ自身が主人公アンジェイを演じており、「アンジェイもの三部作」と呼ばれている。しかし『手を挙げろ!』でのスターリン批判で上映禁止処分となり、祖国を離れることになる。
ベルギーで製作した『出発』('67)が第17回ベルリン国際映画祭で金熊賞を受賞。その後もイタリア、イギリス、アメリカと国を渡り歩きながら、さまざまな作品を発表し続ける。だが90年代以降は監督業から遠ざかり、アメリカの大学で教鞭をとりながら、画家としても活動。
近年、17年ぶりの監督復帰作『アンナと過ごした4日間』('08)、続く『エッセンシャル・キリング』('10)と、再び映画界にカムバックし世界中で称賛を浴びている。
また、『ホワイトナイツ 白夜』('85)や『イースタン・プロミス』('07)、『アベンジャーズ』('12)など、俳優としての活動も有名。
・夜の終りに('60)脚本
・水の中のナイフ('62)脚本
・身分証明書('64)監督/脚本/出演
・不戦勝('65)監督/脚本/出演
・バリエラ('66)監督/脚本
・出発('67)監督/脚本
・手を挙げろ!('67/'81)監督/脚本/出演
・ダイアローグ 20-40-60('68)監督/脚本<未>
・ジェラールの冒険('70)監督/脚本<未>
・早春('70)監督/脚本
・キング、クイーン、そしてジャック('72)監督<未>
・シャウト('78)監督/脚本
・ムーンライティング('82)監督/脚本
・成功は最高の復讐('84)監督/脚本<未>
・ライトシップ('85)監督
・春の水('89)監督/脚本<未>
・30 ドア 鍵('91)監督/脚本<未>
・ホワイトナイツ/白夜('85)出演
・ヴィクトリア('85)脚本<未>
・ビッグ・ショット('87)出演
・マーズ・アタック!('96)出演
・GO!GO!L.A.('98)出演
・イースタン・プロミス('07)出演
・アンナと過ごした4日間('08)監督/脚本/製作
・夜になるまえに('00)出演
・エッセンシャル・キリング('10)監督/脚本/製作
・アベンジャーズ('12)出演
・神聖ローマ、運命の日 〜オスマン帝国の進撃〜('12)出演
97年、トリノ映画祭でおこなわれたスコリモフスキ・レトロスペクティヴに通った青山真治監督はこのように書いています。
引き合いに出された監督との比較はともかく、彼の作品に少しでも触れたことがある人は、青山監督の興奮に共感してしまうことでしょう!
スコリモフスキ作品は、常に社会から疎外されたアウトサイダーを描きます。しかし彼らの葛藤は言葉にたよらず、純粋なアクションとして画面上を魅力的に躍動していきます。アートかエンタテイメントかなんて、安易なカテゴライズを鮮やかに拒絶する不思議な映画たち。スコリモフスキ・ワールドは、一度ハマればきっと抜け出せません。
今回上映するのはどれも凄まじく充実した傑作ばかり。この特集でスコリモフスキ中毒者がひとりでも増えることを願ってやみません!
ムーンライティング
MOONLIGHTING
(1982年 イギリス 97分 ビスタ)
2015年1月24日から1月26日まで上映
■監督・脚本 イエジー・スコリモフスキ
■撮影 トニー・ピアース・ロバーツ
■編集 バリー・ヴィンス
■音楽 スタンリー・マイヤーズ/ハンス・ジマー
■出演 ジェレミー・アイアンズ/ユージーン・リピンスキ/イジー・スタニスラフ/エウゲニウシュ・ハチュキェヴィチ
■1982年カンヌ国際映画祭脚本賞受賞
★3日間上映です。
1981年12月5日。4人のポーランド人の男たちが1ヵ月の観光ビザを携えてロンドンの空港の入国審査を通過する。唯一英語を話すことができるノヴァクが管理官を説得しなんとか入国すると、同じポーランド人の「ボス」の家へ向かう。彼らは金を稼ぐためこの家の改修作業をしに来たのだった。
仕事は毎晩11時まで続き、住む場所も快適な状態とは程遠く、あげくに金が不足し食料を万引きすることを余儀なくされる。そんなおり、ワルシャワで待つ妻・アンナに電話をかけようとしたノヴァクは交換手の口からポーランドで戒厳令が施行されたことを知る…。
独立自由労組“連帯”の勢力拡大を弾圧するべく、1981年12月にポーランド全土に戒厳令が敷かれた事件にインスパイアされ、急遽作り上げられたサスペンスフルな傑作。ロンドンに不法滞在しながら、とあるフラットのリフォーム作業に明け暮れるポーランド人を描いた物語には、当時ロンドンに本格的に移住したばかりだったスコリモフスキの実体験が色濃く投影されています。また本作はジェレミー・アイアンズの最初期の主演作でもあり、作業を円滑に進めるため、祖国の大事件を仲間たちに隠蔽しようと滑稽なまでに四苦八苦するノヴァク役を好演しています。特殊な状況でありながら、普遍的な中間管理職の悲哀溢れるその姿には、思わずグッときてしまいます!
シャウト
THE SHOUT
(1978年 イギリス 86分 ビスタ)
2015年1月24日から1月26日まで上映
■監督・脚本 イエジー・スコリモフスキ
■製作 ジェレミー・トーマス
■原作 ロバート・グレイヴズ
■脚本 マイケル・オースティン
■撮影 マイク・モロイ
■編集 サイモン・ホランド
■音楽 アンソニー・バンクス/マイケル・ラザーフォード/ルパート・ハイン
■出演 アラン・ベイツ/スザンナ・ヨーク/ジョン・ハート/ティム・カリー
■1978年カンヌ国際映画祭審査員特別グランプリ受賞
★3日間上映です。
精神病院で開催されたクリケット大会にスコアラーとして参加したロバートは、そこで出会ったクロスリーという男から奇妙な回想話を聞かされる。妻とふたりで暮らす音楽家アンソニーは、教会からの帰り道に謎の男クロスリーに出会う。クロスリーはなぜかアンソニーの自宅に押しかけ、かつて自分の子どもを殺したこと、そしてオーストラリア先住民から叫び声で人を殺す能力を授けられたことを夫妻に打ちあけるのだった…。
平穏な日常を掻き乱す謎の男。「俺は声で人が殺せる!」と、物騒極まりないことを言い張るこの男の真の目的とは何なのか? 悪夢の中の出来事のように、謎が謎を呼びまくる不条理な事態の進行と、ドルビーシステムを駆使した緻密かつ圧倒的な音響設計は、観る者を未曾有の映像体験に誘います。これはホラーなのか、ファンタジーなのか、はたまたブラックコメディなのか? ジャンル分け不可能。「スコリモフスキ映画」としかいいようのない超怪作!
バリエラ
BARIERA
(1966年 ポーランド 81分 ビスタ)
2015年1月27日から1月30日まで上映
■監督・脚本 イエジー・スコリモフスキ
■撮影 ヤン・ラスコフスキ
■編集 ハリナ・プルガル
■音楽 クシシュトフ・コメダ
■出演 ヨアンナ・シュチェルビツ/ヤン・ノヴィツキ/タデウシュ・ウォムニツキ/マリア・マリツカ/ズヂジワフ・マクラキェヴィチ
★4日間上映です。
4人の医学生の若者が寮の一室でマネキンの掌の上に置かれたマッチ箱を手を使わずに口でくわえるゲームに興じている。彼らのうち1人が勝者となり、賞品代わりの豚の貯金箱を受け取る。勝者の青年は学業を放棄し全財産が詰まった旅行鞄をひとつもって寮を出た。そこで彼は路面電車の運転手をしている娘に出会う…。
初期2作でゴダールの絶賛を受けたスコリモフスキの長編3作目。題名は戦後ポーランド社会の抱える世代間の「バリエラ=障壁」を表しています。多分に当時のポーランド社会の暗喩を含んだ象徴が散りばめられていますが、それ以上に、強く惹かれ合いながらすれ違ってしまう男女の心理が感覚的に見事に映像化されています。恋の歓びと切なさの間を揺れ動くふたりによって、現実の街は幻想と混じりあったシュールな光景に染められていきます。過激な実験性とキュートな叙情性が渾然一体となった、スコリモフスキ節全開の一本!
出発
LE DEPART
(1967年 ベルギー 91分 SD)
2015年1月27日から1月30まで上映
■監督・脚本 イエジー・スコリモフスキ
■脚本 アンジェイ・コステンコ
■撮影 ウィリー・クラン
■編集 ボブ・ウェイド
■音楽 クシシュトフ・コメダ
■出演 ジャン=ピエール・レオー/カトリーヌ=イザベル・デュポール/ジャクリーヌ・ビル/ヨーン・ドブリニーネ
■1967年ベルリン国際映画祭金熊賞受賞
★4日間上映です。
ブリュッセルで美容師見習いとして働いているマルクは、レーサーになることを夢見ている。彼は二日後に予定されているラリーへの出場登録をしているが、肝心の車を持っていない。そこでマルクはポルシェを手に入れるべく奔走する。
同僚の友人にインド王“マハラジャ”の扮装をさせて自分は彼の秘書のふりをし、自動車販売店で試乗するふりをしてまんまと車を盗み出したマルクだったが…。
ゴダールの『男性・女性』('66)に主演したジャン=ピエール・レオーとカトリーヌ=イザベル・デュポール、同作の撮影監督ウィリー・クランを迎えて製作された作品。青春の無垢な輝きと喪失の痛みをこれほど描き切った作品も珍しい。どうしても車を手に入れてレースに出たい! という想いだけで突き進むマルク(ジャン=ピエール・レオ―)と、その子供じみた言動に呆れつつ行動を共にするヒロインのミシェール(カトリーヌ=イザベル・デュポール)。淡い恋と冒険に疾走するふたりの表情のひとつひとつ、一挙手一投足がどうしようもなくおかしくて、愛おしい。彼らの迎える切ない幕切れは、いつまでも消えない鮮烈な余韻を残します。クシシュトフ・コメダによるメロディアスなジャズスコアや、クリスチアーヌ・ルグラン(ミシェル・ルグランの姉)によるアンニュイな主題歌も印象的な、かけがえのない青春映画の大傑作!
(ルー)