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一度死に、餓鬼阿弥と化したオグリ。(『蘇りの血』
一度死に、ヴァンパイヤと化した神父サンヒョン(『渇き』)。
彼らは何度も甦る―
生死、愛憎、聖俗、美醜、すべてを破壊してあの世から逃れてくる主人公たち。
その理由を彼らに訊ねてみよう。一体なぜそうまでしてこの世に執着するのか?
事実、そうまでしてこの世に身体をつなぎとめようとすればするほど、彼らは自由から遠のいていくかのように見えるというのに。

彼らの道先案内人は、囚われの女たち。
大王の元から逃げだし、深い森の中をいざり車を引いていくテルテ(『蘇りの血』)、
窮屈な家庭に幼い頃から閉じ込められていた人妻テジュ(『渇き』)。
彼女らにとって解放をもたらすことになった男と共にいてもなお止まない、追いかけてくる死(=どんづまり)の恐怖。
その執拗なまでに濃密な不自由さの中、「この世の方が、地獄より地獄だ」と街や森に声が反響し人々を脅かす夜に、
小さな死を何度も繰り返す彼らだけは、異邦人に違いない。

彼らの目には何が見えるだろう?
人間の形相をより鮮明にしてやまない不死の液体”血”(=生への入口)の周辺で、彼らにだけ許された選択。
その姿を目撃した時に、観客に訪れる感動につける名前は存在しない。
そこは、この世でもあの世でもないのだから。

今週の早稲田松竹の二本立ては『渇き』と『蘇りの血』。
不自由さを飛び越えんと叫び声をあげる、血で書かれた二つの物語をお届けします。

(ぽっけ)

蘇りの血
(2009年 日本 83分 ビスタ/MONO PG12 2010年8月7日から8月13日まで上映
■監督・脚本 豊田利晃
■撮影 重森豊太郎
■音楽 TWIN TAIL

■出演  中村達也/草刈麻有/渋川清彦/新井浩文/板尾創路/マメ山田

善か悪か、人か魔か。
その世界から追放された一人の男は、地の底から<蘇る>。
それは、人間として生きるため、愛する者を守るため。

pic闇の世界を司る大王が患う業病を癒すために招かれた天才按摩オグリ。「あの世行き」を恐れる大王にとって、この腕利きの男は必要不可欠であった。しかし、忠誠を誓わないオグリに腹をたてた大王は、彼を「あの世」へ葬る。しかしオグリは身体と心の自由を奪われた姿で現世に戻ることに…。

姫・テルテは偶然にも森の中で、そんなオグリと再会を果たす。彼に想いをよせるテルテは彼を「人間」の姿へと蘇らせるために、一心不乱に地の果てにあるという「蘇生の湯」を目指すのだが…。

picたとえどんな憂いある時代であっても、現世を全うし、「生きたい」と思う人間から溢れだす「生命力」。この普遍的なテーマに、アダムとイブのような愛の起源を盛り込んだ本作は、大胆な音楽と映像の融合で観る者すべてを魅了する。

『空中庭園』から4年――
待望の豊田利晃監督最新作、遂に誕生。
ダイナミックかつ繊細に描かれた、人間の再生と愛の始まりの物語。

pic監督デビュー作『ポルノスター』から、その年の映画賞を総ナメにした『空中庭園』まで、日本のみならず世界でも新作を熱望される監督、豊田利晃。4年振りとなる監督最新作は、歌舞伎や浄瑠璃の演目にもなっている説話「小栗判官」をモチーフにした世界。豊田自身が、紀州・熊野に旅をしていた道中に出会った「蘇生の湯」と伝えられるつぼ湯。その温泉につかって不治の病を治したという小栗判官の寓話にインスピレーションを受け、あの世とこの世を往来する人間の「蘇り」の物語が誕生した。

“破壊”から“再生”というテーマを一貫して描いてきた豊田利晃。本作では更なる広がりを見せ、人間のもつ生命力の強さ、存在意義を雄弁にスクリーンに焼き付ける。


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渇き
THIRST
(2009年 韓国・アメリカ 133分 シネスコ/SRD R15+ 2010年8月7日から8月13日まで上映
■監督・製作・脚本 パク・チャヌク
■脚本 チョン・ソギョン
■原案 エミール・ゾラ
■撮影 チョン・ジョンフン
■音楽 チョ・ヨンウク

■出演  ソン・ガンホ/キム・オクビン/シン・ハギュン/キム・ヘスク/オ・ダルス/パク・イナン/ソン・ヨンチャン

■カンヌ国際映画祭審査員賞/シッチェス・カタロニア国際映画祭主演女優賞/モントリオール・ファンタジア映画祭最優秀アジア映画ブロンズ賞

神父と人妻が堕ちていく
<血>と<官能>に彩られた罪深き愛の物語

pic致死率100%の猛威を振るう謎のウイルスのワクチンを開発するため、自死を覚悟で人体実験に志願した神父のサンヒョンは、輸血された正体不明の血液によって一命を取り留める。奇跡の生還を讃えられたサンヒョンは、ある日、幼馴染みのガンウの妻、テジュとめぐり合う。テジュのあどけなさの中に潜む不思議な色香はサンヒョンの心をかき見出し、テジュもまた、猛烈なまでにサンヒョンに惹かれていた。しかし、サンヒョンの身には、人体実験時の輸血の影響で、ある異変が起こり始めていたのだった。

picある夜ついに、サンヒョンとテジュは、欲望を抑えきれず互いを求めあう。神の教えに反する意識に苛まれながら、二人はかつて経験したことのない快楽に身を焦がしていく。そして遂には、ガンウの殺害を企てるのだった。二人の罪深き愛の行く手には、知る由もない数奇な運命が待ち受けていた…。

カンヌ映画祭を騒然とさせた
パク・ヌチャク監督の衝撃の問題作!

代表作『オールド・ボーイ』を含む“復讐三部作”で世界中にその名を轟かせたパク・ヌチャク監督。彼が10年越しという念願の企画を実現させた本作は、2009年カンヌ国際映画祭で会場に居合わせたすべての観客を驚嘆させ、見事、審査員賞を受賞。

pic異色の主人公サンヒョンに『殺人の追憶』『グエムル〜漢江の怪物〜』などの主演を務めた、韓国きっての実力派俳優ソン・ガンホ。長年の盟友であるパク監督のオファーに応え、10キロ減量したスリムな変身ぶりで難役を見事に演じきった。またテジュ役のキム・オクビンは、この映画の最大の発見といっても差し支えない。ソン・ガンホとの大胆なセックス・シーンもこなし、劇中でみるみる輝きを獲得していくその変わりようは、まさに新たなスター女優の誕生を予感させ、シッチェス・カタロニア国際映画祭では主演女優賞に輝いた。



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