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いまいちぱっとしない女たち…なんて言わないで!

季節はもうすぐ夏だというのに目の前の雲が晴れないというあなた。
むしろ年中梅雨もようだからもう慣れたし…という、やさぐれ気味のあなた。
そんなことを言っている場合ではありません。彼女たちを見てください!

今週の二本立ては熊切和嘉監督初の女性映画『ノン子36歳(家事手伝い)』と、
ケラリーノ・サンドロヴィッチ監督劇場映画三作目『罪とか罰とか』。

この二作品のヒロインたち、ノン子とアヤメは、
二人とも今ひとつな人生に嫌気がさしています。
でもなんだかんだ言って心の底ではまだ諦めていない…
そう、まだ終わってなんかいないのです!
ああ、わたしも負けちゃいられませんです。

この二人に試練(いじわる)を与える二人の監督。
二人とも容赦なく、それぞれのヒロインをめっためたに打ちのめします。
でも、打ちのめされてよれよれなはずの彼女たちが
どんどん魅力的に見えてくるのはどうして?
きっとどちらの作品も、彼女たちはとっても監督に愛されているのでしょう。

だから鼻血を出しても、
おしゃれでなくても、
そこいらのものを蹴っ飛ばしても、
笑顔が引きつっていても、
愛おしく見えるのに違いありません。

ノン子36歳(家事手伝い)
(2008年 日本 105分 ビスタ・SR)R-15

2009年7月4日から7月10日まで上映 ■監督 熊切和嘉 監督からメッセージが届きました!
■脚本 宇治田隆史

■出演 坂井真紀/星野源/津田寛治/佐藤仁美/新田恵利/宇都宮雅代/斉木しげる/鶴見辰吾

■オフィシャルサイト http://nonko36.jp/

バツイチ出戻り、職なし、彼氏なし・・・

ノブ子(ノン子)は東京でタレント活動をしてみたが鳴かず飛ばず。マネージャーと結婚するも即離婚。今は実家の神社を手伝いながら、ただ生きているだけ。つっかけをずるずるさせてママチャリで行く先は同級生が経営するスナック。それが唯一のおでかけ。おしゃれなんていつしたかもう分からない。

picそんなノン子の前に、突然ひとりの若者が現れる。彼は神社の祭りでヒヨコを売ってひとやま当てたい、とやる気まんまん。世間知らずだが純粋でまっすぐな彼に、しだいに心を開いていくノン子。そこへ、別れたダンナがノン子を訪ねて来て・・・。

熊切和嘉監督といえば強烈デビュー作の『鬼畜大宴会』が私は真っ先に思い浮かぶのですが、そんな鬼畜な(映画を撮る)監督が初めて女性映画を作ったという・・・。いったいどんな映画なんだろう、と興味がわきました。そうして観たところ大変な衝撃を受け、そして心地よい音楽と共にエンドロールが終わる頃、この映画が大好きになっていました。

ノン子(坂井真紀)の無表情な視線や、吐き出す煙草の煙。そんなものから滲み出ているどうしようもない無力感。つかみどころのない年上の女性に憧れを抱く若者マサル(星野源)のぎこちなさ。ダメ男の見本のようなノン子の元ダンナ宇田川(鶴見辰吾)の、匂いすぎるうさんくささ。

マサルが最初に登場した時は、いかにも子供っぽくて頼りなさげ、なんて思ったのに、宇田川のあとに見ると、子犬のような単純さに何となくほっとしてしまいます。この二人の男の対比が、とても印象的。

30代女とヒヨコ男の青春

pic熊切監督はノン子という女性を中心に置きながらも、年上女性に惹かれるマサルの描写もかなり丁寧に描いています。もともとこの作品は、年上の女性が好きな熊切監督と脚本の宇治田隆史が「男子的目線(妄想?)」で膨らませたものだそう。

『鬼畜大宴会』は振られた腹いせに作ったとのことですが(笑)、今作では女性への愛がものすごく感じられます。それがノン子をさらに魅力的にさせているのだと思います。ダメなところでさえも。


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罪とか罰とか
(2008年 日本 110分 ビスタ・SR)

2009年7月4日から7月10日まで上映 ■監督・脚本 ケラリーノ・サンドロヴィッチ

■出演 成海璃子/永山絢斗/段田保則/犬山イヌコ/山崎一/奥菜恵/大倉孝二/安藤サクラ/串田和美

■オフィシャルサイト http://www.tsumi-batsu.com/

本当ならば、これがデビュー作!?

続いては、ケラリーノ・サンドロヴィッチ(KERA)監督の劇場公開三作目『罪とか罰とか』。失速することなく作品を発表し続け、むしろ勢いは増すばかり。頭の中は宇宙にでも繋がっているのでしょうか。すごいです!

映画は演劇に比べてターゲットが広いから、演劇でやっていたような不条理でアナーキーな笑いを前面に出すのを遠慮していた部分があった、と語るKERA監督。だけど今回はその部分も遠慮なしにどくどく出ています。自分のホームグランドに戻って作ったというKERA色全開の作品!

pic円城寺アヤメ(成海璃子)は、いまいちイケてないグラビア・アイドル。同じ日にスカウトされた同級生の耳川モモ(安藤サクラ)は表紙を飾るほど売れているのに、アヤメのページは逆さまに印刷されるは、印刷の顔に黒いシミがついて知らない子供に鼻毛女呼ばわりされるは、散々なありさま。

アヤメは衝動的に自分の逆さまグラビアが掲載されている雑誌を万引きしようとするが、あっけなく捕まる。だがそれがきっかけでアイドルらしいお仕事、「一日警察署長」をすることに。

午前中で終わる簡単な仕事のはずが、どうも様子がおかしい。おまけに自分を担当してくれた刑事は元カレの春樹(永山絢斗)で…。

pic…と、これがあらすじなのですが、物語はがけっぷちアイドルとは何の関係も無さそうな、ちょっと変なサラリーマンの加瀬(段田安則)の日常から始まります。その後マヌケなコンビニ銃撃犯トリオ(大倉孝二・山崎一・奥菜恵)が登場。この三人のやりとりはスピード感と、絶妙な間が何とも気持ちいいです!さらに「トイレに現れる謎のおじさん」まで…。まだまだ素敵キャラが沢山出てきますが、これらの話の絡ませ方が面白い。タイトルどおり『とかとか』の部分まで、ぎっしり詰まっている嬉しさが味わえますよ!

そして成海璃子のダメアイドルっぷりが本当に可愛い。
以前当館でも上映された『神童』を観ていても、これほどまでに毒々しいコメディが似合うとは思いもしませんでした。前半のイジイジから後半の開き直りがあっぱれです。脇を固める豪華な面々は、個性大爆発のKERA作品の常連の犬山イヌコ、大倉孝二をはじめ今をときめく麻生久美子から、何故か行定勲監督まで!瞬きをしている間に見逃さないよう、ご注意を・・・。

時々世の中は、この程度にはデタラメだ(KERA)

pic私たちの世界では、予想もつかないことが時々起こる。良い事も悪い事も。それが自分の目の前にやって来たらパニックになるかもしれない。

『罪とか罰とか』の世界の住人は、みんなそれぞれのピンチに慌てふためいているけど、そういう人って何故か滑稽に見える時があって、他人の私たちはつい笑ってしまう。人ごとだから。

「距離を取って、自分を、人生を、世の中を鳥瞰するのが喜劇だとすれば、これは僕にとって生き続けるための最も有効な手段です。」
と語るKERA監督。

私も今日から実行したいと思います。自分を指さして笑ってやります!

(リンナ)


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