リリー
LILI
(1953年 アメリカ 81分)
2007年12月15日から12月21日まで上映
■監督 チャールズ・ウォルターズ(『イースター・パレード』『上流社会』)
■原作 ポール・ギャリコ
■脚本 ヘレン・ドイッチュ
■出演 レスリー・キャロン/メル・ファーラー/ジャン=ピエール・オーモン/ザ・ザ・ガボール/アマンダ・ブレイク
リリーに登場する歌は、この「ハイ・リリー、ハイ・ロー」たったこれだけ。ミュージカルなのに?いえいえ、観れば納得。悲しみに暮れ、自殺しようとしたリリー。それを引きとめたあやつり人形と歌って踊るシーン。そしてラストのバレエシーン!何度も観ているのに観るたびにじわりとしてしまいます。むしろ、何度も観ているから?
原作は、『スノーグース』『雪のひとひら』などで人気を博したポール・ギャリコの『七つの人形の恋物語』。原作をよりソフトにわかりやすく、だけど雰囲気は壊さないチャールズ・ウォルターズのセンスとレスリー・キャロンの可愛さに拍手。特に、夢の中のウエイトレスのコスチュームなんて鼻血です。あまりにもキュート。写真より動いているほうが断然良い!
物語は、たった一人の肉親を亡くしたリリーが、とある町に知人を訪ねてやってきたところから始まります。だけど、その人はもういなくて途方に暮れるリリー。
そこに思いもかけない救世主が!それはマークという青年。たまたまこの町に来ていた見世物小屋の若い手品師でした。リリーはマークに一目ぼれ。マークの口利きで見世物小屋のウエイトレスを始めたリリーですが、マークの舞台に釘づけ。お客そっちのけ。当然クビになってしまいます。
そこでマークにすがりますがそっけなくあしらわれ、自殺をもくろむリリー。そこに後ろから呼び止める声が。人形使いのポールが操る人形がリリーを励まします。リリーは純粋な女の子なので人形が本当にしゃべっていると思い込んでいます。やがてリリーに笑顔が戻るのですが…。
(女の子になら)誰にでも優しくて、かっこよくてスマートな手品師マークと、無骨で、怒りんぼで、だけどそっと影で支えてくれる人形使いのポール。どっちがリリーにとって本当の王子様なのか、かしこい女性ならもうお分かりですね?でもリリーは気づけない。だって仕方ありません。リリーはまだ少女。それに気づけるようならもう大人なのです。
人形を通してポールがこんなことを言います。「欲しいものが何でも手に入るとしたら何がほしい?」わからないと答えるリリー。
「ぼくには判る。いつか誰かが君を愛して思ってくれること」
幕の中で切なそうな顔をするポール。私がリリーなら今すぐ幕をひっぺがして飛びついてしまいそうですが、恋って上手くいかないものです。怒りんぼの服を着た本当の王子様にリリーが気づく時は来るのでしょうか?
少女も、もと少女も、女の子を愛してくれる男性も、全ての人を同じように暖めてくれる優しいミュージカル。おみのがしなく。
(リンナ)
魅惑の巴里
LES GIRLS
(1957年 アメリカ 114分)
2007年12月15日から12月21日まで上映
■監督 ジョージ・キューカー(『マイ・フェア・レディ』『ガス燈』)
■脚本 ジョン・パトリック
■音楽 コール・ポーター/アドルフ・ドイッチ
■出演 ジーン・ケリー/ミッツィ・ゲイナー/ケイ・ケンドール/タイナ・エルグ/ジャック・ベルジュラック
★本編はカラーです。
物語の途中で登場人物が突然歌い踊りだし、それまでそ知らぬ顔をしていたまわりの人々までいつの間にか一緒に踊りだす。そんなミュージカル映画に、これまで「なんとなく距離を置いてきた…」という人も少なくないのでは?
本作の魅力のひとつは、法廷での証言とそこで語られる回想を入り交えた、当時のミュージカル映画には珍しい巧妙なストーリー展開。登場人物は、「レ・ガールズ」と呼ばれるショーガール三人娘と、彼女らを率いる舞踏家の男。一座解散後、三人娘の一人が自叙伝で語った、当時の一座の真実とはー。
アンジェロ、シブル、ジョイのショーガール三人娘は、舞踏家・バリイとともに、ヨーロッパを巡業していた。やがて一座は解散し、数年後、シブル著の自叙伝が世に出た。その手記の中には、「一座時代、アンジェロがバリイに失恋し、当時女3人で一緒に住んでいたアパートでガス自殺をしようとした」と書かれていた。それに怒ったアンジェロは訴訟を起こす。
初公判で証人台に立ったシブルは当時の一座の恋模様を赤裸々に語り、自叙伝の内容にも嘘はないと証言する。次に証人台に立ったのはアンジェロ。シブル同様、バリイをめぐる当時の一座の恋を語る。そして、「自殺を図ったの私ではなく、バリイにふられたシブルよ」と述べるのだった。
真相解明のため、法廷に呼ばれた三人目の証人、バリイ。彼の口から出たのは、誰も予想しない新たな事実だった……。
三人娘をとりこにする舞踏家・バリイを演じるのは、ミュージカル黄金期を代表するスター、ジーン・ケリー。映画『雨に唄えば』で、土砂降りの雨の中主題歌を歌いながらタップダンスを踊る男。誰もが一度は見たことのある、ハリウッド史に残るあの名シーンを演じた俳優こそ、彼である。80歳になった1993年には、マドンナのコンサートの振り付けに参加するなど、老年までダンサー、振付師として活躍した。
そして3人のダンサーを演じたのは、ミッツィ・ゲイナー、ケイ・ケンドール、タイナ・エルグ。『スタア誕生』、『マイ・フェア・レディ』の監督・ジョージ・キューカーの手堅い演出力により、3人の個性がそれぞれに発揮されている。
法廷で語られた「真実」は、歌、ダンス、コメディを交え、軽妙に、華やかに紡がれてゆく。真実はいかに。真実などそもそもあるのかないのか……?
(はま)