ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ
BUENA BISTA SOCIAL CLUB
(1999年 ドイツ/アメリカ/フランス/キューバ 105分)
2007年2月24日から3月2日まで上映 ■監督 ヴィム・ヴェンダース
■出演 イブライム・フェレール/ルベーン・ゴンザレス/オマーラ・ポルトゥオンド/コンパイ・セグンド/ライ・クーダー/エリアデス・オチョア

■オフィシャル・サイト http://www.vap.co.jp/buena/
■1999年全米批評家協会賞ドキュメンタリー賞/NY批評家協会賞ドキュメンタリー賞ほか

★本編はカラーです。

「あーーーーーーーーーーーーーーーいい映画だった!」

こんな気持ちになれることなんて、そうそうありません。私は初めてこの映画を観たとき、自分の中に広がる余韻と感動をただじっくりと噛み締めたくて、その後の予定をキャンセルしてすぐさま家に帰ってしまいました。あまりにも幸せな満足感に浸りすぎていたので、なにか外から他の刺激を受けて、この気持ちに水を差すのがとてつもなく嫌になってしまったのです。

pic『パリ、テキサス』で、心象と音楽が互いを完璧に補い合うという、素晴らしいコラボレーションを見せてくれたヴェンダースとライ・クーダー。またしても素敵な作品を生み出しました。地球上で一番セクシーな音楽と、音楽の女神に愛された奇跡のミュージシャンたち。この作品が捕らえたのは、文字通り、天国に最も近い至福の瞬間です。

なんでしょうね、この充足感は!とにかく出てくる人出てくる人(そして恐らくはカメラを向けているスタッフ達も)、みんな楽しげなのです。言葉ではなく、奏でるギターの音で会話するコンパイ・セグンドとライ・クーダー(ニコニコしっぱなし!)の二人の表情を見ているだけで、こっちまで幸せになってしまいます。

「歴史に埋もれたミュージシャン」とはよく言ったもので、中にはライが見出すまで、音楽から離れていた人もいました(生活が苦しくて靴磨きをしてた!なんてエピソードも)。「もう歌はやめたんだ。何も生まれないから」とまで一時思っていた、“キューバのナット・キング・コール”イブライム・フェレールは、けれども、最後本当に生き生きとした顔で歌うのです。生への喜びに満ちたその表情は、ああ人生って素敵、音楽って素晴らしい、って、素直に思わずにはいられません。

picハバナの街並みを、原色の派手シャツ着て、妻の手をとり、ゆるゆると唄いながらちんたら歩くおじいちゃんたち。最高です。なんて素敵なんだろう。人生の色んな悲哀を越えただろうから到達した、その深みのある表情に、魅入られっぱなしです。鳥肌が立つほどに素敵なドキュメンタリー。

数えてみれば、早稲田松竹での上映は今回でもう3回目。つまらない映画だったらこんなに頻繁に上映するわけないじゃないですか。何度も観たくなる、そして何度でも観ていただきたい映画なのです。暗闇の中、座席にすっぽりと埋もれて、目と耳だけじゃなく、体で音楽を感じてください。至福の時間をお約束します。 (mana)



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ブロック・パーティー
DAVE CHAPPELLE'S BLOCK PARTY
(2006年 アメリカ 103分)
pic 2007年9月1日から9月7日まで上映 ■監督 ミシェル・ゴンドリー
■脚本 デイヴ・シャペル
■出演 デイヴ・シャペル/ローリン・ヒル/カニエ・ウェスト/エリカ・バドゥ/モス・デフ/ジル・スコット/ワイクリフ・ジョン

■オフィシャル・サイト http://www.blockparty.jp/

人間の体の約70%は水分で出来ているという。だから私達は体の中に大きな水たまりを抱いて生きている。キャップの開いたペットボトルの中のミネラルウォーターに、ステージに上がったミュージシャン達の歌声がりんりんと響く。エリカ・バドゥの、低く伸びやかな歌声がボトルを持つ指先に、微かな振動になって届いたその時、音楽は、ひゅっ、と懐に潜り込んで、私の素手に触れた気がした。

picヒップホップ。最近では日本の音楽シーンでも堂々たる位置を占めるその言葉は、単に音楽のジャンルだけを指し示すものではない。DJ(選曲、音の組み合わせ)MC(ラップ、語り部)、Breaking(ダンス、動き)、Graffiti(視覚、アート)この四つの構成を備えた文化を表す言葉である。

…なんて言っても、既に知っている人にはこそばゆいし、知らない人にはどうでもいい豆知識ですね。つまり、私が思っていたよりも遥かに、生のヒップホップは奥が深かったのです。

picヒップホップはアメリカの、特に貧困層の黒人達が創りあげた。ノリのいい音楽や、派手なファッションだけではない。その歌詞には、彼らが避けては通れなかった、どうしようもなく痛ましい差別の歴史がざっくりと練りこまれている。この映画のMCと製作を買って出たデイブ・シャペルいわく、「100万年経ってもラジオで流すことが出来ない」と言わしめた、デッド・ペレズの歌なんかが大スクリーンでのびのびと炸裂する。音楽を武器に持った彼らは、もう無敵だ。

picとはいっても、正気を失うほど平和な、この島国で生まれ、育った私には、彼らのメッセージは正直うわべだけ理解した気になるのがやっとだ。カニエ・ウェスト、モス・デフ、ローリン・ヒル、そしてクレジットには出ない特別ゲスト、ヒップホップのゴッドファーザー、クール・ハーク。きっとわかる人にはたまらないキャスティングだろう。彼らがNY、ブルックリンの街の一角(ブロック)で、突然市民を相手にパーティーを開く。この奇蹟のような一夜のありがたみにも、はっきり言ってそこまで染みない。ただわかるのは、圧倒的な音楽の底力と、悔しいくらいにそれを、体の芯から理解して体感できる、パーティーに参加したブルックリンの人々の熱気、狂おしい一体感!そりゃもう、放送禁止用語の一つでも発したくなるってものだ。

しかし、アメリカという国は…なんてくだを巻くくらいのたいそうな意見も無いけども、…ヒップホップ!それはまごうことなき、アメリカが産んだ文化だ。私が思っているよりも、遥かにアメリカの懐は深い。きっと、あなたが思っているよりも。(猪凡)




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