フランキー・ワイルドの素晴らしき世界
IT'S ALL GONE PETE TONG
(2004年 イギリス/カナダ 92分) R-15pic
2007年4月14日から4月20日まで上映 ■監督・脚本 マイケル・ドース
■出演 ポール・ケイ/ベアトリス・バタルダ/マイク・ウィルモット/ケイト・マゴーワン

■オフィシャル・サイト http://www.frankie-wilde.com/

心身を破壊すると、自分の核の甘皮がペロリ一枚剥けた気になるから不思議だ。そこはそこ、フランキー・ワイルド、只今絶賛自虐中。ドラッグをアルコールで流し込んで、輪になってパーティーパーティー。

この世界はちっとも素晴らしくなんかない。人間は大昔から飽きもせずに戦争を続けているし、栄養失調は世界人口の五割を苦しめ、先進国に住む三割は飽食の上にあぐらをかいて、ひ弱な自我と闘っては自滅する。いっそ五感が機能するうちに、快楽に溺れて何が悪いとばかりに夜通し踊り狂う、スペインはイビサ島のパーティーピープル。そこはさんさんと輝く太陽と、美しい海と砂浜が人間をあらゆるしがらみから解放する場所。クラブが乱立し、有名DJが集う、いわゆるクラバーのメッカでもある。

picそこで楽聖ベートーベンよろしく、タクトの替わりにターンテーブルで人々を酔わせるのが、カリスマDJのフランキー・ワイルドである。妻と子供と豪邸に住み、映画スターさながらの生活を送るフランキーは、享楽ってごちそうを、皿が鏡になるまで味わった。そしてある日、フランキーの耳は聴覚を放棄した。DJとして命取りであるそれは、皮肉なことに常に爆音の中に居るDJの職業病として、決して珍しくない結果でもあった。

耳の聴こえないフランキーに、仕事なんてできるわけもなく、妻はそんなフランキーを捨て、子供を連れて出て行った。そしてフランキーは絶望の淵へ、鞄を放り投げて外へ遊びに行く子供のような無邪気さでダイブした。一日中ドラッグとアルコールに漬かりこみ、幻覚と戯れる日々。

朦朧とした頭で、自殺の真似をしようにも、天性の間抜けぶりが邪魔をする。内なる冒険を経て、ついにフランキーは現実を受け止めることを選んだ。音の無い、静寂の世界へ。

生活の為に読唇術を教える教師、ペネロペに出会った。聴覚障害に対して全く屈託の無いペネロペは、フランキーの心をほぐしていった。ペネロペはフランキーに、耳で聴く音楽ではなく、体で感じる音楽を教えた。「音」としての音楽ではなく、体で「振動」を受け止めること。フラメンコダンサーがかき鳴らすけたたましい足音が、テーブルのグラスを震わす振動。そしてクラブの大音量スピーカーの前に立って、肌を突き抜け、体中を音の振動が巡っていく。その時フランキーの中で、まだ見たことの無い音楽が生まれ、そして…

picもしかしたらあなたにとって、なんてことはない一種のサクセスストーリーかも知れない。間違っても、この世界を変えてやろうなんてメッセージの映画ではない。ただ、水に触れて初めて言葉の意味を知り、世界を掴むことの出来たヘレン・ケラーのように、八方塞でにっちもさっちもいかなくなった日常の、風通しを良くするヒントをもらった気になる映画だった。(猪凡)



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敬愛なるベートーヴェン
COPYING BEETHOVEN
(2006年 イギリス/ハンガリー 104分)pic
2007年4月14日から4月20日まで上映 ■監督 アニエスカ・ホランド(『太陽と月に背いて』)
■脚本 スティーヴン・J・リヴェル/クリストファー・ウィルキンソン
■出演 エド・ハリス/ダイアン・クルーガー/マシュー・グード/ジョー・アンダーソン

ああ友よ、
このような音楽ではなく、
もっと心地よく、
もっと喜びに満ちた調べに
声を合わせようではないか!

この詞だけでピンときた人は結構なクラシック好きのことだろう。
詞だけでは分からなくても、メロディがのればほとんどの人が「ああ、この曲ね」という反応を示すのではないだろうか。それほどよく知られ、愛され続けている名曲。

picこれはルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンの 交響曲第9番ニ短調作品125第4楽章の一節。シラーの『歓喜に寄す』という詩にいたく感動したベートーヴェンが、この詩の曲をつけようと思い立ったのがいわゆる”第九”の原点であり…この映画はそんな第九の初演にまつわる物語。

第九の初演を4日後に控えているというのにいまだ楽譜が完成しないベートーヴェン。そんな彼のもとに作曲家志望の学生アンナがコピスト(写譜師)として派遣されてくる。思いもかけず女性のコピストがやってきたことで激怒するベートーヴェンだったが、やがて彼女の才能を知り、徐々に信頼を置くようになっていく。昼夜を問わず創作活動を進めていく中、音楽を通じ二人の心は通い合い、そこには師弟愛以上の感情も芽生え始め…そしてついに初演の日を迎える。

pic1998年『トゥルーマン・ショー』でゴールデングローブ賞 助演男優賞を受賞のエド・ハリスが主役・ベートーヴェンで新境地ともいうべき演技を見せれば、『トロイ』『戦場のアリア』で脚光を浴びたダイアン・クルーガーも、ベートーヴェンの孤独を母性愛で優しく包み込むアンナを好演。見せ場の第九演奏シーンはまるで生のオーケストラを聴いているかのような圧倒的な迫力だ。(タカ)




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