Jの悲劇
ENDURING LOVE
(2004年 イギリス 101分)
2006年3月11日から3月17日まで上映
■監督 ロジャー・ミッシェル『ノッティングヒルの恋人』
■原作 イアン・マキューアン『愛の続き』(新潮社刊)
■脚本 ジョー・ペンホール
■出演 ダニエル・クレイグ / サマンサ・モートン / リス・エヴァンス
配給:ワイズポリシー
ド・クレランボー症候群──かつて「恋愛の精神病」「純粋色情狂」(←なんて身も蓋もない呼び名でしょう)という名で論文も発表された症例。病状の発現が唐突、爆発的で、相手の男性が自分を愛しているという強力な妄想を抱くのが特徴である。
『Jの悲劇』は、シックなインテリアに囲まれた部屋に住み、テートモダンでデートするおしゃれカップル(職業設定が作家兼大学教授と気鋭の彫刻家である)が、ある出来事をきっかけにストーカーにつきまとわれる話である。ブッカー賞作家イアン・マキューアンの世界的ベストセラー「愛の続き」を、『ノッティングヒルの恋人』のロジャー・ミッチェルが、同じく『ノッティングヒル』でも起用したリス・エヴァンスを据えて映画化。主演は新ジェームス・ボンドに決定したダニエル・グレイグだが、リスの怪演にこの地味目007は完全に食われている。
全編にわたって散りばめられる赤い色──赤いバス、赤いジャージ、赤いりんご、赤いトマトソース缶、赤いワイン──が、不吉の前兆のように観客をじわじわ追い詰め、知らず知らずに不安な感覚に誘い込まれる。中でも、緑の草原から青い空へと吸い寄せられる赤い気球のオープニングシーンが、この映画の魅力の80%を占めていると言っても過言ではない。
永続的な愛(enduring love)というのは、狂った人間の愛のことなのか?この映画はその問いに"YES!"と答える。愛は、最も尊重される経験の一つでありながら、精神病と区別がつかないのである。
(mana)
真夜中のピアニスト
DE BATTRE MON COEUR S'EST ARRETE
(2005年 フランス 108分)
2006年3月11日から3月17日まで上映
■監督・脚本 ジャック・オーディアール『リード・マイ・リップス』
■出演 ロマン・デュリス / ニールス・アルストラップ / オーレ・アッティカ
■セザール賞8部門受賞
ハーヴェイ・カイテル主演の『マッド・フィンガーズ』(78)を “現代の名匠” ジャック・オディアールがリメイク。
薄汚い裏社会で不動産ブローカーをやりつつも、ピアニストへの夢を捨てきれない青年・トム。なかなか現状を打破する術を見つけられずにいたのだが、かつての母のマネージャーとの再会によって日常が変わり始める・・・。
まず、スクリーンから湧き立つなんともいえぬ色気が観る者を陶酔させる。美しいヴィジュアルも要因の一つだが、何といっても主演ロマン・デュリスの存在によるところがでかい。 「ジャン・ポール・ベルモンド、アラン・ドロンの再来」と言われる彼の魅力が全編に迸っている。これこそ正に正統派映画スターの証明。
また、クラシック音楽とエレクトロ・ミュージック、横暴な父と芸術家の母、夢見る華やかな世界と目を背けたくなるような現実等、全編に散りばめられた様々なコントラストも、作品の奥行きをより深いものにしている。
海の上にも戦場にもいたピアニストだが、今度のステージは現実社会。トムにとっては、毎日を生き抜くことが演奏すること。そして演奏することが生きるということ。演奏シーンがクライマックスの音楽映画と思ったら大間違い。日々を葛藤しながら生きてゆく青年の純粋なドラマがここにはある。その不器用なまでの純粋さは我々観客にも生きる道標となるだろう。
『真夜中のピアニスト』青春映画ですが何か?
(オサム)