力道山
RIKIDOZAN
(2004年 韓国/日本 149分)
2006年9月16日から9月22日まで上映
■監督・脚本 ソン・ヘソン
■出演 ソル・ギョング(『シルミド/SILMIDO』『オアシス』) / 中谷美紀 / 萩原聖人 / 鈴木砂羽
■オフィシャル・サイト http://www.sonypictures.jp/movies/rikidozan/
力道山といえば元力士、空手チョップ、日本プロレス団体設立者、プロレス界の神、国民的ヒーロー。日本人ならば、名前ぐらいは誰もが知っているはず。しかしヒーローであり続けた彼の孤独を知っている人は、いったいどれだけいるだろうか。
1944年、力道山は、力士だった。そこでは力道山は「金」と呼ばれ、朝鮮人の彼は、そこで先輩力士からの指導という名の暴力やいじめに耐える日々だった。
ある日、空襲警報が鳴る中、逃げ惑う人々の中に一人の女性を見つける。それが彼の妻となる綾との出会い。お互いに「遠いところ」の出身で、慣れない世界で生きている自分と同じ境遇の綾に惹かれていく。そして互いに惹かれあった二人は結ばれることになる。
1951年、力道山が力士をやめるきっかけになるある事件が起こる。関脇として勝ち続け、大関昇進が確実視されていたにも関わらず、力道山の名は番付表には無かった。それは「朝鮮人」であることの壁があるのが明らかだった。結局、力道山は相撲協会の役員の前で、自ら髷を切り落とし、力士としての自分を捨てた。そんな絶望の中にいたある日、酒場でのチンピラとの喧嘩の仲裁に入った男がきっかけで西洋のスポーツ、「プロレス」の存在を知る。そこから彼の本当の強さが目覚める。
国籍を捨て、家族と離れて、成功を信じて頑張っても、認めてもらえないこともあった彼の人生。
「俺は日本人でも朝鮮人でもない。世界人だ」という力道山。国籍を超え、日本人の心を盛り上げた彼は「孤独」を感じていたかもしれないが、日本人の心に大きな存在となって今もそこにいるのだ。それがヒーローというものかもしれない。
(リンナ)
<追記>本作には2005年7月に亡くなった橋本真也が出演している。彼の最後の戦いは、この映画の中にあった。彼もまた日本のヒーローとして、永遠に生きるだろう。
クライング・フィスト
CRYING FIST
(2005年 韓国 120分 )
2006年9月16日から9月22日まで上映
■監督・脚本 リュ・スンワン(『ARAHAN アラハン』)
■出演 チェ・ミンシク(『オールド・ボーイ』) / リュ・スンボム(『ARAHAN アラハン』) / イム・ウォニ / チョン・ホジン / ピョン・ヒボン
真夜中にふと目が覚めて、物の輪郭もわからない暗闇をじっと見つめていると、自分が何者なのかわからなくなる。深海に蠢くグロテスクな生き物になったような、闇間を漂うミクロの塵になったような、そんな気分になる。東京に居ると、それは真昼でも起こるようになった。特に、渋谷。巨大な人塊のモンスターみたいな街。あの中に居て、自分は何者であると、どうすればわかるんだろう。
ボクシングアジア大会の元銀メダリストのカン・テシク(チェ・ミンシク)は、今や過去の栄光からはほど遠い姿に落ちぶれていた。大きな借金を背負い、妻と子供にも見捨てられた。テシクに残された借金を返済する方法は、路上に立って再びグローブを握り締め、「殴られ屋」をすること以外なかった。
喧嘩とカツアゲにしか生き方を見出せない19歳のユ・サンファン(リュ・スンボム)。ある事件をきっかけに少年院に入る事になったサンファンを、刑務主任はボクシング部に連れて行く。喧嘩も暴力も通用しないボクシングに、サンファンは途端にのめりこんでいく。
昔の栄光を安売りする事でしか食いつなげないテシクと、チンピラとして社会から疎外されるサンファン。韓国の全く違う場所で、二人の男達の孤独な戦いが、決して交わることなく加速していく。堕落した元の姿を脱いで、「戦う者」に姿を変えて。ボクシングの新人王戦の決勝戦で戦う、運命のその日がくるまで…。
二人はボクシングを選んだ。勝利を手に出来たとしても、白内障やパンチドランカーなどの後遺症の危機に、常に肉体をさらしながら。
生身のままで痛みを与える事と痛みを受け入れる事はどっちも似ていると思う。体を芯から揺るがすダメージは、他者と自分が存在する重みを、嫌というほど実感させる。ここに居る自分は何者なのか。向かってくる相手は誰なのか。リングの上では、むき出しの闘争心に応えることだけが、互いの存在を認める手段になる。
殴りたい。殴られたい。組み敷いて、組み敷かれて、這いつくばって、這いつくばらせて、血が出てもお互いに向き合う。何かを祈るようにパンチを繰り出す二人の姿に、私のすかすかの頭と体が馬鹿みたいに呼応したがった。暴力でなく、勝ち負けでもなく、彼らはきっと反吐が出るほど生きたいんだ。
(猪凡)